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海中公園センター(1984)は、優占サンゴ属の占める割合により3種類のサンゴ群集(a.ミドリイシ科の優占域、b.多種混合域(Acropora被覆度50%)、c.沈水裸岩域(成長の遅いキクメイシが優占)を想定し、それぞれのタイプのサンゴ群集におけるサンゴの年間成長率をサンゴの水平投影面積で10、6、および2%と見積もった。さらに、一個体のオニヒトデが1年間に摂食するサンゴの水平投影面積をEndean(1974)による見積が6〜12m2/匹/年であることから10m2として、許容密度を計算した。その結果、当時の崎山湾での許容密度は30匹/haと見積もられた。

また、波部ら(1989)は、Acropora formosaとA.nobilisを用いた実験から、日間の成長率を計算し、光や水質などの条件により異なるが、平均0.6%/日という値を求めた。これはおよそ116日で元の重量の2倍に、1年で約8.9倍に成長する。また、投影面積1m2のA.nobilisは1年間でその投影面積に相当する面積の成長をすると見積もられた。つまり、その面積がオニヒトデの食害を受けても群体の大きさは一定に維持できるといえる。

オニヒトデのように繁殖能力(fecundity)が高く、幼生が海流によって運ばれ、成長が速く、高密度集団が比較的短時間しか維持されないような種に関して正常な分布密度を定義することは困難である。突発的な大量発生も、オニヒトデにとっては正常なものかもしれない。現在、それを判断する知識は得られていない。「正常か異常か」、よりも「高密度か低密度か」の方がまだ客観的に定義しやすい。あるいは、サンゴ礁の保全という視点からすれば、「許容できる密度」を考慮する方が現実的であろう(Glynn 1973, Birkekand and Lucas 1990、山口1986)。そのような意味で、この報告書では以後、「異常発生」ではなく「大量発生」という語を使用する。

オニヒトデの行動はその分布密度によって影響を受ける。低密度であれば広く散らばって生息し、しかも物陰に隠れている傾向がある。沖縄のサンゴ礁では、Nishihira & Yamazato(1974)によれば、密度が25-30匹/ダイバー/10分潜水(Birkekandは22.5匹/ダイバー/10分潜水=450四/haと換算した)を越すと、オニヒトデは集団を形成し昼間でもサンゴ群体の表面で摂餌をおこなうと報告している。

 

(3) 沖縄およびその他の地域から報告されたオニヒトデの大量発生

a. 沖縄

以上のように定義されるオニヒトデの大量発生に関し、日本では、古くは1938年に与論島で発生しているという聞き取り調査結果がある(Birkeland and Lucas 1990)。また、八重山群島の鳩間島では1953年11−12月に島の重要な水産物であるキリンサイの収穫にも影響を及ぼすほどオニヒトデが増殖し、漁民が総出で駆除にあたり連日トラック一杯のオニヒトデを駆除したと伝えられている(環境庁1973、1974)。白井(1956*)は、1955年ごろ奄美大島の笠利地方に大発生したとの聞き取り情報を報告している。また、宮古では1957年から1959年に大発生が見られた(環境庁1973)。

 

 

 

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