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そのため、世界各地で数多くの研究がおこなわれ、論文が発表されている。1970年代で約300本、1980年代では350本を上回る数の論文が出版されている(Birkeland & Lucas 1990)。1990年に発表されたBirkeland and LucasのAcanthaster planci: Majour Management Problem of Coral Reefsには、オニヒトデに関連した1,000本近くの文献が引用されている。

また、文献調査に基づく総論もすでにいくつか発表されている。例えば、Potts(1981*)やMoran(1986)はオーストラリアのグレートバリアーリーフから得られた知見をもとに過去の成果をまとめている。また、Birkeland and Lncas(1990)は、太平洋地域からの視点でオニヒトデ駆除にも重点を置いて過去の問題を整理している。さらに、最近Sapp(1999)は、オニヒトデの大量発生が自然現象であるのかあるいは人為的な要因によるのかとの論争に焦点を当て、オニヒトデを研究する科学者と行政担当者およびマスコミとの関わりを通しオニヒトデの問題をひとつの社会現象として論じた。このようななかで、世界で最も盛んにオニヒトデ駆除を実施してきた日本では、オニヒトデの総論が発表されていない。

ここでは、オニヒトデの詳細な生理学や生態学の問題そのものよりはむしろサンゴを食害する大量発生したオニヒトデの個体群密度をコントロールするのに有効な情報を整理することに主眼を置く。なお、実際に原著を入手できずに孫引きせざるを得なかった文献に付いては発表年の後にアステリスク(*)で示した。

 

(2) 「異常発生」の定義

オニヒトデは、100〜370万年前に、親近種のAcanthaster brevispinusの祖先から進化したと考えられている(Nishida & Lucas 1988)。また、サンゴ礁の堆積物からオニヒトデの棘が見出せることから、その頻度や程度は明らかではないものの、ここ数十年ではない過去にオニヒトデの大量発生が起こっていたであろうことが推測される(Walbran et al. 1989, Fabricius & Fabricius 1992, Henderson 1992, Henderson &=Walbran 1992, Keesing et al. 1992, Pandolfi 1992)。しかし、サンゴ礁で漁業活動が盛んであった沖縄で、オニヒトデの大量発生が知られていなかったことなどから、1960年代の大量発生の頃までは希少種であったと推定される。

では、オニヒトデがどれくらいいれば異常発生なのであろうか? Kenchington and Morton(1976)はオニヒトデがサンゴ礁生態系での位置付けが十分に理解されていないために、「正常な」密度を定義することはできないとした。さらに、オニヒトデの分布が不均一で物陰に隠れる性質があるために、密度を推定することが容易ではない。

Moran(1986)は、過去に報告されたオニヒトデ密度の値を集計し、大量発生の定義のばらつきを示した(140cots/ha〜1000cots/ha)。例えば、単位面積あたりの個体数として、Endean and Stablum(1975)は、14匹/1000m2、また、単位観測時間あたりの個体数として、Pearson and Endean(1969)は40匹/20分間の遊泳をオニヒトデの大量発生と水準としている。しかし、Moran(1986)は、オニヒトデの大発生の定義は、オニヒトデ密度のみの単一の尺度を用いるだけでは不充分で、サンゴの状態も考慮しなければならないと強調し、100匹/ha未満は「低密度」とした。

 

 

 

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