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生から死に変わる瞬間には何が起こるのだろうか。こんな事ばかりをずっと考えていました。また、献体についても考えさせられました。ほとんどの人、少なくとも私は、どう生きようかということには頭を抱えるほど深く悩み考えますが、どう死のうかということに対してはとても浅はかのような気がします。死んだ後も誰かの役に立ちたい。献体をして下さる方は、きっとこんな気持ちなのでしょう。でもこれは、とても自然な考えのようでいて、実はとても尊いものなのではないかと思います。私は献体をして下さった御遺体に、医学生として感謝するとともに、人としてとても深く尊敬しました。御遺体に直に接することによって、医師になるための知識とはまた違う、別の何か大切なものを得られたと思います。

二つ目の意義は、人体の構造を自分の目や手で確認できたことです。百聞は一見に如かず、と言いますが、まさにその通りで、講義や教科書だけでは説明しきれないことや理解できない部分も、自分の目で見て手で触れ観察することによって初めてわかったことがたくさんありました。ただ反省すべき点は、幾分名前を覚えるということに執着してしまったことです。もっと「なぜ」、「どのように」という視点で人体の構造を観察するべきだったと思います。

最後に、実習も終盤にさしかかり、細かな構造物を観察するようになって、私はふと思ったことがあります。それは、「たった一個の細胞から、たった十ヶ月でこんなに複雑な構造に人間が生まれるなんて、何と不思議なことだろう」ということです。

 

 

 

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