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解剖実習を終えて

高山研一

 

「死」は生の終焉を意味するという点では、ひとつの事実として認識されているが、「死」への想い、考え方、即ち死生観という観点から見た場合、人それぞれ違った考えを持っているというのは興味深い。頭のなかでは「死」というものが理解(わか)っているが、心のなかで想っていることは、必ずしも他の人々と同じではないということである。そのひとつの理由として宗教観や文化的背景が我々に影響を及ぼしているのであろう。一般に日本では、死んだ後も、その人の魂は遺体に宿っているという死生観があり、死体を損壊することを忌み嫌う傾向がある。日本で臓器移植が定着しない理由も、このような背景があるのだろう。

そのような状況のなかで、自らご遺体を献体なさってくれた方と、その御遺族の皆様にはひたすら感謝の意を表したい。そこに至るまでの決意には葛藤のようなものがあったであろうし、生半可な気持ちでではなかったのであろう。また、我々医療サイドの人々への強い信頼感も持っていて下さったに違いない。実習の最中、度々私は亡くなられた方と御遺族の方々へ思いを馳せた。どのような想いで献体されたのかとか、彼らの遺志を無駄にはできないという強い使命感、責任感のようなものを感じたりした。

 

 

 

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