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解剖学実習

松田英樹

 

いよいよ二年生も後期に入り、解剖学実習が始まった。今日ほど「医の倫理」が強調され、「良医」の育成が強く要望されている時代はない。「医療は患者と医師との信頼関係に基づいた共同作業」とも言われるように、患者の立場に立ち、「医の心」をもって患者に接することが我々に求められている。

将来、医師になろうとする我々が、本格的に医学の勉強を始めるにあたり、その起点とも言うべき「人体解剖学実習」で、「より良い医師になるために、自分の体を使って十分に勉強して下さい。」という願いをこめて献体された御遺体によって学習することにより、我々は、人体解剖学の知識の習得と同時に、献体に対する感謝の気持ちと、この期待に応えねばならないという責任と自覚をもち、それなりの覚悟をもって実習に臨まなければならない。我々は、御遺体から人体解剖学の知識だけではなく、大きな精神的教育をも受けることだろう。

初めて御遺体を拝見したとき、数ヶ月前までは我々と同じように喜び、悲しみ、様々な感情・人格を持ったひとりであったはずの人が、そこに静かに横たわっていることに、非常に不思議な感情を覚えるとともに、その方の生きてきた「時間の重み」のようなものを感じた。

 

 

 

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