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したがって、19条1項の主語である「通航」は、19条2項の諸活動のリストに基づいて、有害という性質を帯びると解するのが、起草趣旨を尊重した解釈である。

フランスの1985年デクレ3条は、その規定ぶりからすれば、行為態様以外の基準により有害性を認定する趣旨であるとは必ずしもよめない。かりに、フランスの学説によるデクレの解釈が、フランスの国内実践を反映しているとしても、そのような解釈が国連海洋法条約19条の解釈として適合的であるかについては、これまでの検討からすると疑問が残る。このような解釈が国家実践により蓄積すればともかく、起草過程における諸国の見解や米国とソ連の合意という国家実践に比較しても、現段階でフランスのデクレによる国連海洋法条約の解釈(ないしは、フランスの学説によるフランスのデクレと国連海洋法条約の解釈)は、一般的に承認をえられるものではない。

 

(4) フランスの1985年デクレに関するその他の留意点

デクレ5条1項は、無害ではない通航を防止したり中断するために、必要な警察措置をとることを規定する。この「中断するため」の措置は、国連海洋法条約25条には規定がない。同条は、「防止するために」と規定するのみである。この点は、「無害でない通航」を行っている船舶は、すでに、「無害通航権」を享受してはいないので、無害通航権により沿岸国の領海に対する領域主権が限定されることはなく、したがって、沿岸国による領域主権の当然の行使として、無害でない通航を中断し排除する措置をとることができると解される。フランスのデクレ5条1項は、これを国内法上明記したものといえる。

なお、国連海洋法条約25条は、防止措置の要件と程度および内容については規定していない。たとえば、海洋環境の保護に関する規定では、220条は、「疑うに足りる合理的な理由」を要件としている。25条に基づく防止措置も、24条の制限のみならず、220条を勘案して、同様の要件のもとに取るべきであるともいえる。*30フランスのデクレ5条は、 この点については明らかにしていない。

 

 

 

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