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このことから、わが国では、海上保安官による海上における法執行活動が、司法警察官として刑事訴訟法に規律された司法警察作用を行うという部分に傾斜しているのであるが、行政法の構造上、フランスにおいても同様の状況が生じていることが推察される。それにもかかわらず、フランスでは、海上における行政警察作用について、相当程度具体的な議論を行っていることは、まず第一に関心を惹かれるところであるし、そこで海上警察作用として論じられているものの具体的内容を精査することが必要と言えるであろう。

第二に、フランスにおいては、海上警察が、海域に関する公物管理法に基づく警察権限とは一応区別された形で論じられていることが、注目される。すなわち、公物管理法の枠でとらえた海洋管理法制の問題とは一応別個に、海上警察という法執行作用に関する議論の枠組みが設定されているのであり、このことは、わが国への示唆という点で興味深いもののように思われる。わが国では、行政法学者が海洋管理のあるべき姿を論じようとする場合に、海洋を何らかの形で公物と把握し、その上で海洋に関する公物管理権を整備・拡大する形での問題解決を主張する場合が多かったように思われる。確かに、沿岸に近い海域に注目して陸域との一体的管理を構想したり、様々に入り組んだ海洋の利用を総合的に調整したり、沿岸に重大な影響を及ぼすような海難事故等に対処する一元的な管理主体を設けるといった事柄を考えた場合に、海洋に関する公物管理法を新しく設ける必要性は高いと思われるし、何よりも、わが国では、現在に至るまで海域について積極的機能管理を行う根拠となるべき公物法が存在せず、このような空白状態の克服が大きな課題となっていることは明らかであろう。しかし、他方で、漁業管理、海洋環境管理、海上での密入国取り締まり・麻薬取引の規制等々が公物管理権から導かれるということは不可能ではないにしても簡単には想定し難いし、領海外の排他的経済水域等までわが国の公物管理権が及ぶということはそもそも説明に無理があると考えられる。沿岸域の管理法制の構築については公物管理法の拡充という議論の方向で良いとしても、海洋法(国際法)に基づく日本の海洋政策の根幹としては、公物法とは区別された、ないし公物法とは次元を異にする、国の統治権の現れとしての海上警察の法概念の復活・再構築を目指すこともひとつの選択肢となり得るであろう。

 

 

 

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