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4.5 環境影響と保全

 

4.5.1 北極海の海洋構造

 

北極海に限らず、環境汚染物質の循環には海洋が大きな役割を果たす。ここでは、北極海の構造を概観してみる。

北極海を特徴付けるものとして、まず、1年間存在する海氷が挙げられる。海氷は海水と大気の間の熱・物質交換に大きな影響を及ぼす。北極海は、高緯度の大水深域と比較的浅い沿海域に分けられる。沿海域とは、チュクチ海、東シベリア海、ラプテフ海、カラ海、バレンツ海、ボーフォート海である。3.1.1に示すように、北極海はほぼ閉じられた海であり、太平洋と結ぶベーリング海峡、大西洋と結ぶカナダ多島海、フラム海峡、バレンツ海を通して、海水の出入りがある。北極海航路に使われるシベリア側の広大な大陸棚域は、100m以浅の水深域が沖合200〜800kmにも広がっている。この領域は、全北極海面積の36%を占めるものの、水量は2%でしかない。また、この付近では河川からの淡水流入が極めて多い。特に、融雪期に集中する。

鉛直循環については、相反する下記の2つのプロセスが存在する。

●河川からの淡水流入により密度成層ができ、鉛直循環を起こしにくくなる。また河川流入により、北極海から大西洋への海流が生成される。

●冬期に熱が奪われると、海氷ができる。海氷は、海水中の塩分や不純物を排出しつつ成長するので、海水が重くなり、深海へと沈み込む。

北極海全体については、海流の動きは年間を通してそれ程変わらない。しかし、塩分濃度は海氷の生成と融解に大きく影響され、水深25〜50mの上層では、28‰〜33.5‰まで変化する。水温も氷の動きによって大きく影響される。これは、氷の融解熱が80kcal/kg(水の温度変化の80度分)であることから、容易に理解できるであろう。

水深ごとの海水の動きを汚染の観点から図4.5-1に示す。表層では、ベーリング海峡側から大西洋に抜ける貫北極海流と、カナダ側のボーフォート環流が特徴である。一方、深度が大きいところでは、水深の影響を受け、複雑なパターンになっている。

 

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図4.5-1 北極海の海水循環

 

 

 

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