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これらの砕氷船は75,000馬力の推進器を備えて2.3mの氷板を連続砕氷して航行する能力を有する、ロシアが世界に誇る最強の砕氷船である。また、河川及び沿岸域における使用を目的とした浅喫水型原子力砕氷船Taymir及びVaygachの2隻は、ロシア、フィンランドの共同開発により建造された。これらの原子力砕氷船は現在、全てムルマンスク海運会社に所属している。一方、ディーゼル-電気推進による砕氷船はフィンランドにおいて建造され、ムルマンスク海運会社及び極東海運会社に分かれて所属している。次項に示すように、近年砕氷能力に優れた船首形状が開発・実用化されているが、ロシアにおける砕氷船は従来型の楔形船首を有するものが殆どであった。しかしながら、ディーゼル-電気推進による砕氷船のうち、Kapitan Sorokin、Kapitan Nikolayev及びKapitan Dranitsynの3隻は、浅喫水型の同型船として建造されたが、Kapitan Sorokin及びKapitan Nikolayevは後に、それぞれ、WAAS船型及びconical型船首に改造されている。

このように、ロシアは隻数、能力ともに世界最強の砕氷船団を有するが、ロシアの砕氷船は、1993年におけるYamalの建造を最後に、新造船が無い。Arktika級の原子力砕氷船Uralは1985年に建造が開始されたが、起工後15年近くを経た現在に至るまでも完成を見ていない。なお、同号はVictory in World War IIと改名されている。このような中、1970年代に建造されたArktica、Sibir及びYermakの3隻が2000年に退役の予定である。Arktica及びSibirは75,000馬力型の5隻の原子力砕氷船の中の2隻であり、Yermakもディーゼル-電気推進型の砕氷船の中核を成す1隻である。しかしながら、ロシアの経済的混乱の中にあって、これらの砕氷船の代替船の建造計画が具体化する見通しは現在のところ全く無い。ソビエト連邦時代に比べてNSRにおける海運量が激減した現状にあっては、これらの砕氷船による商船支援に対する需要も減り、極地観光船に転用されるものもある。しかしながら、砕氷船による航行支援システムは、NSRの国際商業航路としての本格的利用の可否を決定付ける最も重要な因子の一つであり、既存船の退役・老朽化が進む中、ロシア砕氷船団の維持が懸念されるところである。

 

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図4.1-8 原子力砕氷船(Arktika)

 

(3) エスコートオペレーション

NSRにおける氷海商船の航行には2種類のモードが存在する。その一つは単独航行であり、商船が単独で氷野を航行する。しかしながら、氷況が厳しく、単独航行では遅延あるいは航行不能に陥る可能性が考えられる場合には、より砕氷能力の高い砕氷船のエスコートを受けながらコンボイを組んでの航行モードをとる。このモードでは、砕氷船が先頭で氷野に水路を切り開き、その中を後続の船舶が進む。コンボイの構成は氷況を勘案して決定され、氷況が厳しいほど被エスコート船の数を減らす。一般的には、氷の密接度が5/10から6/10程度の場合には1隻の砕氷船が3、4隻の船舶をエスコートし、密接度が8/10を越える場合には1ないし2隻にまで隻数を減ずる。

 

 

 

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