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この協力のなかに「漁獲割り当て」という文言を含ませなかったことにより、かつて高度回遊性魚種についての利権を保有していた国は、沿岸から200マイル以内においてはその利権を失うこととなった。もしも沿岸から200マイル以内において漁獲を行なう場合には、沿岸国との「協力」の下に行なわなければならない。沿岸国との「協力」とは、即ち沿岸国の同意を意味するのである。

高度回遊性魚種の取扱いは、国連海洋法条約特有の多くの曖昧さの一例である。確かに、たとえ大規模で複雑な交渉でなくても、勝者及び敗者のいずれにも受け入れられる規範を作り上げるのは誰にとっても不可能である。ましてや150を超える国の、それぞれの利害が対峙する代表団の思惑を調整し、実行性のある規範を作り上げることは更に一層困難であると言える。国連海洋法条約の規則は、多くの場合EEZの境界線及び沿岸国の権利について、明確に規定し得ていない。更に重要なことは、紛争解決のための意思決定手続きの不明確さが、将来予見し得る利害対立の解消を一層困難にしているのである。

高度回遊性魚種を巡り、諸国は条約の履行のために協力すべきであると、頻繁に要求されるが、そのために依って立つべき規範が明示されていないことは、条約の大きな欠点であると言える。国連海洋法条約には、高度回遊性魚種の将来に亘る保存についてはいかなる規定も読み取れないので、この種のEEZからEEZへ、或いは公海にまたがる境界性の魚種を取扱う国は、「当該資源の保存及び開発を調整し、整備するために必要な措置について合意するよう努力」しなければならない38。しかしながら、具体策についてはなにも規定されておらず、交渉国は恐らく将来適応すべき自国の規範を、交渉過程において一方的に確立したものと推察される。しかしこのことは、あくまで派生的な論点ではあるが、協力が求められる特定の局面での追加的な交渉の可能性を残したものと読み取れる。

 

 

 

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