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軍艦の通航については交換条件とされたが、しかしそれと引き換えに沿岸国と通航船舶が遵守すべき規則と権利が明確に確立されたのである。船舶及び航空機が、海峡又はその上空を遅滞なく通過することを沿岸国が妨げてはならない代わりに、通過通航中の船舶及び航空機が遵守すべき義務も同様に規定された20。通過通航中の船舶及び航空機は、沿岸国に対して武力による威嚇を行なってはならない代わりに、沿岸国もまた通過通航を停止してはならない21。沿岸国は、船舶の安全な通航を促進するために必要な場合には、海峡内に通航のための航路帯を指定し、及び分離通行帯を設定することができる22。更に沿岸国は、航行の安全又は汚染防止のための法令を制定することができる23。要するに、国連海洋法条約は、関係者にとってバランスがとれ、かつ権利及び義務を明快に規定し、万一紛争が発生した場合にも活用される手順を明示したと言える。

 

国連海洋法条約の主要な成果は、非群島国家が群島海域を使用出来ることを条件に群島国の特異な地位の解決を図ったことにある。国連海洋法条約以前には、群島国は、自国の島嶼間の海域について法的権利を主張することが殆どできなかった。人口及び領域が多くの島嶼に分散していることから、群島諸国は国家としての社会的、政治的一体性を保持することが困難であり、多くの島嶼に漁業、衛生、及び財政的な規則を執行することが難しかった。特に密入国は大きな問題であった。群島国は、他国と比較して自分達はその生存をより大きく海洋に依存していると主張した。その結果として、群島国は、最も外側の島、及び常時水面上にある礁の最も外側の点を結び、群島基線を引くことを主張した。この基線の内側では全ての水域は内水であり、群島国の排他的な管轄権が及ぶこととなる。永年に亘り、群島国のこの要求は過度な要求であるとして拒否されてきた。

 

国連海洋法条約は、群島基線について長さ100マイルの範囲内で最も外側の島、及び常時水面上にある礁の最も外側の点を結ぶ群島基線を規定した24。群島国は、領空、領海及び資源に対する主権を獲得することになった25。しかし、重要な海洋使用権について非群島国が関心を寄せていたのは、群島内の主要な島の間の水域を通航する権利であった26。通航権を行使する船舶及び航空機は、勝手に航路帯を外れて通航するという権利は有しないが、一方、群島国は、主要な輸送経路を阻害しないような形で航路帯を設定することが求められた。群島水域を通航中の船舶及び航空機は、通過通航権を享受すると共に義務を負うものである27。群島水域内の群島国の権利はEEZと同様に興味深く、かつ新しいものであるが、第三次海洋法会議の代表団はグロチウスの理論の最も重要な部分を残したのである。

 

 

 

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