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Jour. Japan Soc. Mar. Surv. Tech. Sep.1999

 

解析した和歌山水試の全資料を時間順に並べて、この見かけ上の移動速度の生起確率を求めた結果がFig. 1である。この図で分かるように、時としては30ノットを超すような、船舶の性能から考えられないような値も生じている。この頻度分布から見て、異常データを検出する船速の閾(しきい)値として、15ノットを選び、異常値の検出を行った。発見された異常船速に関わっていた測点数は14、164点中387点であった。この場合、ある1つの測点の位置が実際とは大きくかけ離れてミスタイプされていると、その点および前後の点の3点が異常船速に関わった測点となるし、測点の位置がその次の測点位置にタイプされているような例では、その測点およびその前の測点の2つが異常船速に関わった測点となる。時間に関しては、あらかじめ時間順に並べ替えられているので、一つの点の観測時間が誤って次の点の観測時間と同じ時刻にタイプされている場合は、この間の移動速度は無限大になる。この資料において、海陸チェックで検出される誤りは15測点あったが、これらは全て船速チェックにおいても検出され得ることが分かった。

和歌山水試には、観測野帳の他に、観測航海毎に観測結果を纏めた海洋観測表が保管されている。船速異常が見出された事例について、この海洋観測表と対照し修正を加えることにより、387点中の殆どである372点については、異常を解消することが出来た。さらに、観測野帳に戻って、11点の異常を解消することが出来た。修正されなかった残りの4点(組数としては2)の事例は、1980年8月と1989年12月の観測されたものであるが、この時の船速は、それぞれ16.2ノットと15.6ノットであった。これらは、観測時間間隔が非常に短い場合および潮岬東方沖で黒潮に乗った形で東方に移動した場合であり、正常な観測値と考えている。Fig. 2に示したものは、上が船速チェックを基にした修正を行う以前の測点分布で、下が修正後の測点分布である。陸上にあった観測点を初め、異常な観測点位置はほぼ完全に修正されていることが分かる。品質管理における船速チェックの有効性が、良く分かるであろう。以上のことから、観測野帳から海洋観測表に転記する際にも若干のミスが生じているものの、殆どのミスは観測表から流通フォーマットヘの転記(データ入力)の際に生じた単純ミスが原因であることが分かる。和歌山水試の例では、水産試験場独自の緊急な全ての業務・研究が終了した後で、いわばボランティア的に流通フォーマットのデータベースの作成を行っており、時にはアルバイトがこのような作業にあたっている所に問題があるようである。

MIRCが開発した現場用の品質管理ソフトでは、いわば素人でも楽しく容易に扱えることをモットーとしているのはこのためである。和歌山水試の例で観測表に誤りが少ないのは、これが現場業務の基になっており、作業段階で自然に品質管理・誤りの発見がなされているためと考えられる。MIRCの品質管理ソフトでは、データ入りの平面図や断面図の作成、TSダイアグラムの作成等、現場業務を助ける機能をも備えているが、これは入力されたデータが現場業務の中でチェックされることを期待しているのである。この研究では、海洋観測表や観測野帳との照合を丹念に行ったが、この作業には非常な手数がかかった。また、そのような作業はデータベースを作成保管するJODCやMIRCのような組織では単独に行うことは不可能である。データ提供機関での最初のデータ処理作業で可能な限りの品質管理が行われることが本質的に重要なのである。

 

3. 深度チェック

観測値の作表上のミスを発見するのに有効な方法の1つに深度チェックがある。その1つは各測点でのデータが深さの順に並んでいるかを見るもので、もう1つのものは観測深度が測器の測定限界を超えていたり、その位置での海の深さを著しく超えているような場合を検出するものである。(前者の場合、ある観測点での各層観測が2度に分けて行われ、それぞれのキャストのカバーする深度レンジが重なりあっていた場合のように、正常な場合も含んでいることに注意する必要がある。)これは、和歌山水試の観測例ではないが、前者の典型的な例の1つを、JODCに保管されているXBT資料からFig. 3に示しておく。この例では3つのデータ点で観測深度が100 m以下に突然移っている。このミスは、このデータ供給機関で船の名前を伏せたいという希望があり、元々のカード型のデータフォーマットで、最初の行の3から4の欄に船舶名の記載があったものを削除する際、データ欄についても3から4の欄の数値を消去してしまったため深度の上二桁が消えてしまったのが原因である。

 

 

 

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