藤田(1997a)(この論文の内容の一部は、SEKINE and FUJITA、1999に示されている)はFig. 1 に示すような定線を設定して、これらの線上で黒潮の流軸位置を海洋速報から読み取りFig. 2 に示すような時系列を求めた。この時系列から定線間での相互ラグ相関等を計算して小蛇行の東進現象を示そうとした。しかし、ラグ相関解析からは、東進現象を示唆するような有意な結果を得ることができなかった(藤田ら、1997b、1997c)。またこの時系列を詳細に検討しても東進現象を明確に示すような現象は認められなかった。そこで、われわれは、基となった海洋速報に戻って検討しなおした。その結果、都井岬沖で生じた小蛇行がそのまま東進するのではなく、その西縁は殆ど動かないままに東西幅が増大していく、すなわち東縁だけが東進していくと考える方が自然であることが分かった。少なくとも、都井岬沖で発生した小蛇行と同じ程度の東西幅を持つ蛇行が四国沖で検出された例は皆無であった。後に述べるように、従来の研究でもほとんどが蛇行の東縁の移動から「小蛇行の東進」を推定しており、今回の結果は過去の研究と矛盾する訳ではない。しかし蛇行の変形を考慮した議論は今までにはなかった。この論文では藤田(1997a)の議論を更に発展させ、黒潮大蛇行発生のきっかけを与える都井岬沖の「小蛇行」の変形と、紀伊水道周辺で新しく生じる東西幅の小さい「小蛇行」について論じ、従来の考え方の再検討を行うことにする。なお、この論文の一部は第9回PAMS/JECSワークショップ(1997台北)で発表されたものであり、概要は英文でそのプロシーデイングに載せられていることを付記する(FUJITA and NAGATA、1998)。
2. 1986年及び1989年大蛇行発生直前の黒潮流路地の変遷
Fig. 2 に見られるように、1975年以降に1975年7月、1981年11月、1986年11月、1989年11月の4回、黒潮の大蛇行が起こっている(大蛇行の定義は研究者により若干異なるが、ここでは藤田(1997a)に従う。これはほぼ海洋速報の定義に一致している)。1950年までさかのぼると、SHOJI(1972)が議論の対象とした1959年5月と1969年4月の大蛇行の発生が知られている(1969年4月の事例については、継続期間が短く大蛇行と見なさない場合もある)。われわれは過去の全ての大蛇行について、発生直前の海洋速報の再吟味を試みたが、1950年以前については観測点が少なく、黒潮流路の変遷を海洋速報から論ずることは不可能である。また、1981年の事例についても、基礎となる観測資料が四国沖において少なく今回の議論からは省いた。
これらの事例のうち、特に1986年の場合には第5管区海上保安本部水路部が中心となって、特別な黒潮観測体制を取った関係から観測資料が豊富である。
また、1989年の際の観測資料はこれに次いで豊富である。そこでこの2例について先ず考察してみよう。