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私には小学校4年生の時に起こった伊勢湾台風の記憶が強く、非常に印象に残っているが、学校で災害の様子を、ニュース映画等を利用して示してもらったことが大きいと思う。最近では、高潮災害でも、一世代の内に起こるとは限らず、世代間の情報伝達が非常に重要だと考える。小学生の夏休みの宿題に過去の災害について祖父母等に話を聞いてきて、それを皆で議論して纏めるといったことを行うべきであろう。災害対策は行政だけで対処出来るものではなく、個人個人の知識が重要である。若い、小学生クラスを対象としての啓蒙をもっとやって欲しい。

(永田)MIRCでも普及啓蒙を活動の柱の一つにあげているが、まだ十分な成果を上げているとはいえない。しかし、今後学校で使えるような動画をもとにした映像教材を作ることを計画している。ご協力をお願いする。

今日の鈴木さんの話は、私には非常に印象的であった。私が大学院のころ、開発や埋め立てがブームであった訳でるが、当時工学系の人と水産系の人で話が噛み合わなかった。例えば、「1ヘクタールの埋立地から工学的に予測できる収益はいくらだが、水産面での減収はどのくらいか」といった議論が工学側から出る。こんな土俵上では勝負にならないし、水産面では漁獲量といった直接収益だけでなく、藻場のような卵稚仔の生育場の経済評価をどうするのかが重要課題となるが、逆にこれは工学系の人には良く理解できないということがあったように思う。今日の話では、種々の観測あるいは計算を通して数量的な議論を相当されていた。あそこまで行くと、今後もっと噛み合った議論が可能になるのではと思ったのですが、如何でしょう。

(鈴木)内湾での浅場が漁業資源を支え、水質を保全する上できわめて重要であることを示す点では、かなりの成果を上げられるようになり、埋立予定地の水産上での重みを議論する土俵に近づいたかとは思う。問題は、愛知県の漁業者が対象としている重要魚種でも70種類に達していて、ごく一部のものを除いては、産卵場所、生育場所、越冬場所といった生活史が明らかにされていないことにある。例えばアサリの場合でも、愛知県は全国の33%のシェアをもっているが、産卵後約2週間の浮遊期をへてどこに着底するのかという解析も余り進んでいないという実態がある。浅場の水質浄化機能といったことは明らかになってきたが、生物資源に関連しては各魚種について、幼稚仔といった非常に若い世代を対象として、海岸線や浅場について重み付けをしていかねばならない。そうして、ある開発が行われた場合、どれくらいの影響が漁業に現れるかを、公開の場で科学的に議論する必要がある。ただ、そのためには余りにも情報が不足しているのが現状である。しかし、このようなことは県段階のみで行える訳ではなく、国レベルでの根幹的な観測網を用意して行く必要があろう。たまたま、ノルウエーにおける石油リグと起こり得るオイルスピルの漁業への影響評価の場に参加する機会があったが、石油も漁業もノルウエーでは重要な産業であり両方を維持して行く必要がある。この検討では、有用魚種の生活史を含めて、非常にシステマティックな研究がなされていたことが非常に印象的であった。日本の沿岸域の問題に関わっている者として、情報の不足と基礎的調査体制の不備を痛感した次第である。

(永田)人間は陸上生物であるから、陸上の生物についてはファーブルから始まって、昆虫に至るまで生活史が分かっている。うなぎの産卵場でさえ十分に解明されていないようで、未知の世界を探求しなければならない面がある。また、環境問題は単一の要因から起こることはなく、常に複合要因が関わることは、それぞれの話の中で強調されたかと考える。このため、情報の重要さはますます増大しつつあると考える。また、一方集められた情報は種々の形で、ウエッブ等で、公開されつつあるので、是非アクセスを試みていただきたいと思う。十分な時間が取れず、申し訳なく思うが、このあたりでパネルディスカッションを終わりたい。

 

 

 

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