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これを拡大して四日市港周辺について示したものが図20である。陸の部分には国土地理院のGIS情報をそのまま貼り付けたので、その部分はごじゃごじゃしていて、このままでは読み取れないかもしれない。ここにマリーナの位置、油が冷却水に取り込まれると問題になる発電所の位置、油回収船の所在等を、この例のように書き込むことになる。油回収船を陸上に示してあるが、これはここに船が居るという訳ではなく、その管理機関の所在を示したものである。また、これらのそれぞれについて、そこをクリックすることにより、その属性が表の形で見られるようにすることになる。

油流出対策に必要とされる情報を仕分けすると、1)事前(準備)情報、2)発生中(防災対策)、3)事後(復旧、影響評価、補償)と3つに分けることができる。どんな防災についても共通して言えることであるが、あらかじめ必要とされる情報を可能な限り集めておく必要があり、それにはこのようなマップが威力を発揮するであろう。また、正しい知識の普及や教育が非常に重要な要素となるが、これにもマップ化された情報が有効な役割を果たすと考えられる。発生中の問題は防災対策そのものに関連するが、実際には風評被害というものが大きな位置を占めるといわれており、その防止のためにも上に述べた正しい知識の普及啓蒙と並んで、信頼性の高い情報の迅速な提供が必要となる。これには現況図の作成や漂流シミュレーションといったものが強力な武器となろう。事後情報は復旧事業の計画実行に重要であるし、油の場合には影響評価と補償間題に絡んでくる。ナホトカ号の場合、純学問的な立場からの影響評価としては、一般にそれほど重大な影響は生じていないとされているが、そうでないと言う意見も少なくない。例えば、油濃度のような問題では、20年以上行ってきている水路部の汚染調査の結果と比べて、特に問題は残っていない。しかし、水産物を除く一般の海洋生物に関しては、事前のデータがほとんど無いので、影響評価ができないというべきである。米国では野生生物への被害に対しても補償を問題としているが、このような問題に対処するためには、事前の基礎データの取得・集積が最も重要となる。海洋情報管理室では、情報をこの3つの段階に分けて対処を検討しているが、さしあたってはこの事前情報の収集に重点をおいて、作業を行っている。

最後に永田からのコメントとして、GlSが非常に有効な情報伝達の手段となっていることから、この海洋情報シンポジウムの1回目を昨年神戸で開いたとき、GIS関連の問題を取り上げたことを紹介した。ただ、海洋の場合には静的なGIS情報では十分でなく、風や潮汐等時間的に変化する条件を考えに入れる必要があり、さらに一工夫を要すること、ウエッブ等を通してリアルタイムでの情報提供が行われるようになった関係から、迅速な現況解析やシミュレーションが必要となることが指摘された。

 

総合討論

(永田)海洋情報を取り扱う場合、物理情報は何とか取り扱い得るが、生物・化学関連の情報はなかなか難しいものがある。そのような理由からシンポジウムの計画に際しても、水産に関連したご専門の方に講師を依頼したという背景がある。柴山さんの話でも、生物関連の事前情報が非常に不足しているということがあったが、このような問題にコメントをいただきたい。先ず、藤原先生にお願いします。

(藤原)広い範囲にわたって多様なマップが作られているのが印象的であった。ただ陸上の問題と異なり海の生物は海水とともに移動することから捉えにくい面があり、情報化が非常に難しい面がある。しかし、文章でなく図、特に動画、の手法を取り入れて行くのが有効と考えられる。防災という観点に立った場合、どうも最近に起きたものに興味あるいは重点がおかれがちである。例えば、今油汚染に焦点が当てられているが、伊勢湾について言えば、昭和34年の伊勢湾台風が最も大きな災害であったことは銘記すべきである。それから、情報が公開され、インターネットでアクセスできるようになったことは素晴らしいが、防災問題をもっと学校教育で取り上げるべきである。最近はテレビのニュースやドキュメンタリーで世界中の災害が直ちに報道されるが、身近に起こった過去の災害については取り上げられていない。

 

 

 

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