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人間対人間のかかわりとは、患者や家族を自律した存在であるとみなし、医療を一方的に提供するのでなく協働して行うことであり、患者や家族の意思を尊重すること、自己決定を支えることである。それはその人らしさを大切にしたかかわりであると考える。実習において、毎日のケアや症状マネジメントのための投薬等を行う際、看護婦は患者への確認を必ず行い、患者の決定に沿って援助を行うことを心掛けていた。これら毎日の小さな決定の積み重ねが、今後の自己決定に大きくかかわってくること、患者の自己決定を支えるために必要であると感じた。

緩和ケアとは、患者と家族の思いや価値観を正しく理解し、その人らしさが失われることなく、最後まで患者・家族の希望する生き方ができるよう援助していかなければならないと強く感じた。

 

症状マネジメント

 

緩和ケア病棟への入院を希望する理由の一つとして、症状の緩和が多くの患者や家族から上げられている。終末期における患者は、痛みや嘔気、倦怠感、不眠などさまざまな苦痛症状を持ち、それは患者の行動の範囲を狭め、QOLを低下させる。研修においても症状マネジメントについて多くの講義が設けられており、最新の知識と技術を学ぶことができた。また実習において、症状緩和のための薬物の使用方法や、看護ケアの実際を経験することができた。

痛みをはじめとする症状は、個人的な知覚であり、医療者はそれを予想することはできても、実際に体験することはできない。そのためその症状をいかに捉えるかが重要となってくる。24時間患者の側にいる看護婦こそ症状マネジメントに適した存在であり、そのことを自覚してかかわっていかなければならないと感じた。講義の中で、『症状マネジメントは看護婦の責任である』とのラーソン先生の言葉を聞き、今までの考えを改めることができた。症状を苦痛と感じるか否かは、患者のこれまでの体験や心理・社会的状態によって異なり、患者をよく知ることから始まる。症状マネジメントにおいても患者をいかに理解するかが重要となってくる。患者の訴えを正確に聞き、側にいることが必要であると感じた。

実習において、症状マネジメントに関する薬物のほとんどが定時使用されており、患者個々の状態や日によって異なる症状に合わせて使用方法や用量を変えるなど、きめ細やかな配慮がされていることを知った。

講義での『終末期であるからこそ、患者の状態は日々変わり、それに応じた処置が必要である』との言葉を思い出した。医療者が一体となって、24時間患者の症状をアセスメントし、徹底的に苦痛を緩和するという姿勢をみることができた。また、ある患者から『あーここにいていいんだなーと思う。ここに私の居場所がある』との言葉を聞いた。家庭では家族の疲労を気遣い、周囲の人の目を気にしながら心安らぐことがなく、病状が悪化することや死への不安を絶えず持ち、身体的な苦痛だけでなく、精神的にも社会的にも苦しんでいた患者が、緩和ケア病棟において、すべての苦痛から解放された証であると感じた。

がん患者の痛みは、トータルペインであり、全人的なケアが必要である。身体的な因子だけでなく、精神的・社会的・霊的な側面からのケアを行っていかなければならない。それが行えてこそ、患者は苦痛から解放され、残された生をより良く穏やかに過ごせるのだと感じた。症状マネジメントに関しては専門家は患者であり、患者が主体となってマネジメントを進めていかなければならないという考え方は、これまで全く考えなかった見方であり、視野を広めることができた。実際に症状マネジメントに苦慮していることも多く、講義、実習において具体的な知識を得ることができ大きな学びとなった。

 

 

 

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