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ブラームス/ソナタ 第1番 ホ短調 OP.38

 

ブラームス(1833〜1897)は「チェロ・ソナタ」を2曲残している。ひとつは第1番(ホ短調・Op.38)であり、1865年32歳のときの作。もうひとつは第2番(へ長調・Op.99)であり、1886年53歳のときの作。いずれもベートーヴェン以来のチェロ・ソナタの名作として高く評価されている。

ここで演奏される第1番が着手されたのは1862年29歳のとき。終楽章以外はこの年に一応書き上げられたが、その後終楽章を創った1865年の夏までの間に何度となく補筆された。

終楽章を書いた1865年の2月にはブラームスの母が亡くなっている。この「チェロ・ソナタ第1番」の終楽章には、母を失った悲しさを乗りこえていこうという強い意志力も感じられる。曲は次の3つの楽章から成っている。

第1楽章:アレグロ・ノン・トロッポ、ホ短調、4分の4拍子。ソナタ形式。静かに冥想するような第1主題と、悲劇的な第2主題とによる。

第2楽章:アレグレット・クァジ・メヌエット、イ短調、4分の3拍子。寂しさに満ちた、しかし優雅なものが残照のように光を投げかける美しいメヌエット。

第3楽章:アレグロ、ホ短調、4分の4拍子。冒頭にピアノで奏される3連音で綴られた主題が中心となる自由なフーガ。極めて充実した世界が築き上げられていく。

 

ブラームス/ソナタ 第2番 へ長調 Op.99

 

この曲は1886年ブラームス53歳の8月にスイスの保養地トゥーンで作曲された。トゥーンはインターラーケンからほど近い町であり、トゥーン湖西岸に位置する。町からは湖の向う側に岩山ニッセン(2230m)が見え、更にその向うに夏でも白い雪を冠ったアルプスの山々が見える。空気は清爽。古城と古い教会があり、家々の窓辺には赤い花が飾られている。そしてこの地はドイツ語圏だが、イタリアにもフランスにも近いせいか、人々はかなりなまりのあるドイツ語を話している。アルプスの山麓のお花畑は美しいし、カウベルを付けた牛ものんびり草を食べており、ブラームスはこの雄大で明るく落ちつきもある町を好んだようである。「チェロ・ソナタ第2番」は、こうしたトゥーンの空気の中から生まれた傑作。曲は次の4つの楽章から成っている。

第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ、へ長調、4分の3拍子。ソナタ形式。豪快な冒頭の響きはアルプスの大絶壁を見た衝撃を表わすようでもある。

第2楽章:アダージョ・アフェットゥオーソ、嬰へ長調、4分の2拍子。3部形式。一歩一歩踏みしめてニッセンに登ると、そこからの展望は信じられないほど素晴らしい。この楽章は、ニッセンヘの登山と、みごとな眺望からも霊感を得て書かれているようでもある。

第3楽章:アレグロ・パッショナート、へ短調、8分の6拍子。3部形式。スケルツォ的な楽章。

第4楽章:アレグロ・モルト、へ長調、2分の2拍子。明るく親しみ易く、到達の喜びも感じられる終曲。

 

解説:長谷川 武久

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