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同時に、彼が生前、推進していた世界各地の民族音楽の分野にも光をあてるためフェスタ部門参加グループのなかから、民族音楽、伝統音楽を演奏したグループに「フォークロア賞」を与えることも、今回からスタートした。

そんなわけで、今回も、世界各国から、様々な編成のグループの中が参加したが、残念ながら「フォークロア特別賞」に値するグループは見つからず、授賞は見送られた。しかし、その一方で、このユニークな部門ならではの、新しい現象が生れた。それは、演奏しながら、一種のパフォーマンスを演ずる"パフォーミング・アーツ"とも呼べるグループだった。フェスタの本選に残った8グループのうちの3グループが、この種の演奏をした。見事、"メニューヒン金賞"を受賞した「バックビート」(打楽器四重奏)はマリンバ、太鼓類のほかフットボールを床についたり、ウィンド・マシーンを手で回したり、スティックを4人で叩き合ったりのパフォーマンス。特別賞の「ハバネラ四重奏団」(サキソフォン四重奏)は、4人が楽器の演奏で会話を交わし、寸劇を演じた。同じく特別賞の「ザダスタン・クヮルテット」(リコーダー四重奏)も同じ趣向だった。これらの演奏は、楽しいのひとことにつき、音楽の本質にもふれるものであった。残念ながら日本のグループに、この種のものはなく、"まじめ"というほかはない。このフェスタが、日本のクラシックの音楽シーンを変える起爆剤にならないものかと私は願っている。

 

音楽舞踏新聞 6月21日

フェスタ部門で優勝したバックビートはバスケットの動作やその音を音楽として表現するなど、多彩なパフォーマンスで会場を沸かせた。「打楽器は視覚的にも訴えるものだと思っている。私たちの目的が理解されて感動している。参加したのは、私たちの自己表現がステージでできると思ったからだ。それにこうしたコンクールはほかにはないから」など受賞グループは喜びを語り、運営組織に感謝した。

 

音楽の友 7月号 渡辺 和(音楽評論家)

この催し最大の特徴はフェスタ部門にある。コンクール名誉芸術監督を務めた故メニューヒン卿の強い要望で始まったこのカテゴリー、参加するのは2人から9人までのあらゆる編成の室内楽で、民族音楽も可。参加者年齢制限もなく、恐らく世界で最も間口の広いコンクールだ。予選では60人、本選では100人の審査員は、一般からの公募抽選で選ばれたアマチュアの音楽愛好家なのだ。

審査で求められるのは、「聴衆に対するアピール」である。極端に言えば、「どれだけウケを取ったか」が問題。圧倒的支持でメニューヒン金賞を受賞したイギリスの打楽器グループ「バックビート」は、このフェスタのためにあるような団体。いずみホールで披露したのは、ケージなどのシリアスなレパートリーではなく、打楽器によるパフォーマンスである。バスケットボールや自分の体を打楽器として扱うステージは、大道芸人を眺めるフェスティバル的喜びの中に、高い音楽性と新しい打楽器の可能性を予感させた。この催しならではの逸材の発見である。

同時に進行するコンクール部門は、第1部門(弦楽四重奏)と第2部門(ピアノトリオ、クヮルテット、木管五重奏など)に分かれ、14名のプロ審査員が判断を下す正統派室内楽コンクールである。両部門とも今回からは課題曲を整理したが、それがコンクールとしての明暗を分けた結果になったかも。課題曲を明快にし、参加も評価もし易くした第2部門ではピアノ二重奏のレベルの高さが際立った。第1位のエルサレム・トリオは既に完成された音楽を聴かせ、スカラ座管主席の2人が加わる第2位のトリオ・ヨハネスも、もう一度聴きたいと思わせる自由で闊達な音楽性が気持ち良い団体である。

 

 

 

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