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19:一番危険なメッセージは「アジアは勝手にやったらいい」

 

山本 先ほどちょっと触れましたけれども、私はアカデミック・フリーダムというのは非常にいいことだと思うんです。自由に討議をするし、強制しないということは大変に必要なんです。ただ、アカデミック・フリーダムも行きすぎますと問題です。日本の留学生の話によると、アメリカの考えが見えてこないので、留学生のあいだには疑心暗鬼になりつつあるところが見える。せっかくアメリカにこれだけの人材を集めておいて、その結果、「アメリカが何を考えているのかわからなくなった」と言って帰られては、かえって逆効果ではないか。それが非常に気になるわけです。

ですから、強いポリシーを押し付けて、「こうだ、こうだ」と言う必要はさらさらありませんが、アメリカ国民の考えがここにありということをはっきりと認識してもらわないといけない。これがはっきりしないと拡散していくばかりです。

アメリカがやっている根底には、アメリカが百年かけてやってきたことがあるわけです。自由民主主義という表現は、いわゆるキリスト教的ゲルマン主義を母体とし、それにローマ文明を取り入れたものです。いわゆるキリスト教的自由民主主義がアメリカの芯にある。そういう根底の流れがある。それを言わずに、「リベラル、リベラル」と言ったのでは誤った展望を与えかねない。ですから、自由にするのはいいが、自由民主主義文明が中心だということを、アメリカはしっかり示してもらわなければならない。

「マッチポンプになったら困ります」というのは、そういう意味なんです。アメリカは、ときどき甘いことを外に向かって言う。「アカデミックフリーダムが大事だ」とか、「リベラルが大事だ」と言う。朝鮮戦争がいい例ですが、「アジアは勝手にやったらいい」というメッセージを送ってしまった。これは決定的に間違ったメッセージだった。

そうやって火をつけてしまったあと、アメリカの価値は、自由民主主義にあるわけですから、彼らはそういう信念に基づいて出動してくる。火をつけておいて、今度は、消しにかかる。その結果、アメリカの若者の血が5万10万流れる。アメリカは、今までに何度も、そんなことをやってきている。朝鮮戦争では、アチソン国務長官が誤ったメッセージを流した。それから今度の湾岸戦争でも、女性の大使がサダム・フセインに誤ったメッセージを流した。さらに遡れば、イギリスのチェンバレンだって、ヒットラーに誤ったメッセージを流してしまった。

中台間や朝鮮半島で火がつくようなことがあれば、アメリカの若者の命が何万と失われていく。それはアメリカにとって大変な犠牲です。

しかし、地域の人たちは百万単位で犠牲になるわけですから、たまったものではありません。ですから「そのへんを考えてくれといったのです。マッチポンプにならないようにしていただきたい」と言ったのです。

小川 このテーマは、今回山本さんが方々に行かれる度にお話をされてましたが、アメリカ側に非常に感銘を与えたことを報告しておきたいと思います。

結局、何のために太平洋戦争を戦ったのか。日本人が300万人死んで、アメリカ兵も7万人近くが亡くなった。そして、いま、民主主義と自由経済が広がって、それについては、いまとなれば、日本もありがたいと思っているし、アジア中の人もありがたいと思っているけれども、時として、アメリカがあまりにもリベラルな考え方を発信すると、それが引き金になって、朝鮮戦争が起こったり、いろいろな戦争が起こる。

 

 

 

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