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それから水産も、危機状態の時は餌を使う養殖は廃止する。ハマチの養殖とか、ウナギの養殖をやめて、みんなイワシを食べる。そういう話ですね。だから水産そのものの安全保障とはいったい何だろうということです。水産資源の魚タンパクを維持するのにまずいことが起きたらどうするかという議論がある。それは先ほど養殖とか栽培漁業とか、そういう分野を拡大していくより手はないでしょう。そのときにいろいろな問題があるから、それを新しい技術でなんとか克服できませんか、という提案はできる。だから危機とか、安全保障とか簡単に言うけれど、どういうディメンションで議論するかで対策は違うと思うんです。最近はさらに環境保全の問題が出て来ています。環境保全も広い意味での安全保障かもしれません。

農業が衰退したときに、農業が持っている環境保全機能が失われる。その意味での安全保障を確保するための自給率は全然別の話だと思います。輸入が全部止まってしまって、死ぬか生きるかなんていう話とは違いますね。ただ、農業が後退しても、つまりそれによって農業を維持することに要する財政支出と、どちらが安いかという問題はあります。そういうレベルでもう一回考え直さなければいけない。農業だって環境汚染があるわけですから。いろいろ言っているけれど、やはり兼業農家というのは労働力を節約するために猛烈に薬品を使うわけです。1ヘクタールあたりの農薬、化学肥料の使用料は兼業農家が世界一高い。1年に1回しか使わない機械を買うとか大変な無駄なことをやっている。兼業農家によって環境保全をやるよりも、別なやり方があるかもしれないわけです。

農家戸数をもっと減らして、もっとスケールを大きくした方がいい。一般の人は大きくすると環境破壊というけれど、日本程度ではしれている。アメリカでは問題があるかもしれないけれど、日本では規模拡大は10ヘクタールとか20ヘクタールで、むしろ環境には好ましいかもしれない。農薬とか機械の使用でも、そんなにたくさん使わなくてもいいかも知れない。だから環境保全という観点から見た場合に、どういうやり方があるのか。それは水産にしてもそうです。餌をいっぱいやって、すぐ富栄養化になって海を汚染しちゃう。それをどうするかというのは別問題なんです。養殖は環境保全の安全保障にはならない。

もう一つ、WTOに出てきている労働の問題があるんです。雇用を確保するための安全保障です。それはどちらかというと、農水省というか農政が念頭に置いている一番大きなテーマなんです。口では食糧危機が来たら国民全体が困りますとか、農業保護は環境保全のためにやりますというけれど、本当はそうではなくて、現有の農業就業人口をなんとか維持したい、縮小したらまずい。それも労働力についての安全保障ですね。それにしても農業就業人口のかなりの部分が60歳以上で、将来すごく減ってしまうんです。いまもう400万人割っています。それが100万になってしまう。それでやれる農業というのは一体何か。その雇用を確保してやる農業と、高齢者がいまやっている高齢者対策としての農業とは別なものです。それをまったく一様に農政としてやっていいかどうかという問題があるわけです。雇用の中味とか経営形態を考えた農業経営の確率は別に老人の就業者を野垂れ死にさせろという意味ではなく、一人ひとりそういう人たちの生きがいを持って働く場があっていいわけです。だから老人達に一番いい農業経営と本格的な農業をやるひとたちとをどういうふうに区別してやっていくかが問題です。

 

 

 

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