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初期値解析手法による予測精度の向上

 

数値予報モデルの計算を開始する時刻の大気の状態を初期値と言います。初期値は第一には観測データを基本として作りますが、台風の構造を正確に表現できるほどの詳細な観測が得られないため、気象庁では過去の台風の研究成果に基づいてもっともらしいと考えられる典型的な台風の構造を数値的に表現し、初期値として計算開始時の台風位置に相当する場所に埋め込んでおきます。このデータをボーガス(擬似データの意)と呼んでいます。今回の実験では、ボーガスを用いた初期値から予測した場合が最もよく台風の中心の構造と発達傾向を予想し、ボーガスを用いない初期値で予測した場合は、どのモデルでも台風の発達をうまく予測することができませんでした(図4)。本来、ボーガスではなく、台風の構造を十分に捉えられるだけの観測データを使用するのが理想です。そのために、衛星観測等の観測技術やデータの利用技術の開発を課題として解決に取り組んでいます。いずれにしても、初期値において台風の構造を正確に作り上げることがきわめて重要であるといえます。

 

比較実験のまとめ

 

以上のように、今回実施した比較実験では、初期値と格子間隔をよりふさわしいものとすることによって、予測精度が向上することがわかりました。

また、同じ初期値でかつ同じ格子間隔でも、各参加機関のモデルの予測結果には様々な差があり、台風の発達がうまく予測できなかったモデルも多く見られました。台風の強さの予測に対しては、特に雲と降水を伴う大気状態を数値モデルにおいて適切に表現する方法や、海面から大気への水蒸気や熱の補給の仕組みなどの計算手法を、より目的にあったものにする必要があると考えられています。

 

これからの台風数値予報

 

気象庁は二〇〇一年(平成十三年)にコンピュータを更新する計画です。これを受けて現在の台風モデルを、格子間隔を二分の一程度(二〇キロメートル)にし、鉛直方向の層を一五層から三〇層に増やして運用することができるようになります。今回の比較実験における気象庁のモデルは、他の参加モデルの中でも、発達の予測について上位の成績を得ています。従ってまずは現在運用しているモデルをさらに高分解能にして運用するための技術開発を進めます。さらに今後台風関連の調査研究の進展を踏まえつつ改良を加え、台風の強さの予報に対して有効な情報を提供できるようにしていきたいと考えています。なお、この高分解能のモデルによって、台風の進路予報についても更なる向上が期待されます。

 

おわりに

 

気象庁では、台風の観測と予測をさらに改善し、より的確な情報の提供を目指しています。これらの情報によって、台風による船舶等の被害が未然に防がれることを願ってやみません。

 

図4 ボーガスデータの有無による台風中心気圧の予測結果(格子間隔は共に20km)

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