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海難史の編さんを

海難研究家 福島弘

 

まえがき

 

本誌平成十一年八月号に野間氏の「海国日本と戦没者」と題する記事が掲載された。国のため縁の下の力持ちとして海に散華した先人に、今もこのような気持ちを持っておられることに対し、敬意を表さずにはいられない。

私も氏と共通した考えを持ち、多くの記念碑に拝礼した経験があり、また、それに関連して一つの実務的な願いを永い間抱いていたので、思いのままを述べる。

 

海の顕彰慰霊碑のこと

 

海陸を問わず、功績のあった人や職に殉じた人を顕彰し、あるいは慰霊するための記念碑(モニュメント)を建立することは、民族の風俗、習慣などに差異があっても、人類に共通する人間感情ではなかろうか。世界中のどこへ行っても多種多様なモニュメントを見る。

私は、海を職場とする現役時代、行く先々で数多くの海の顕彰慰霊碑を拝礼し、感動したものである。記憶に残る代表的なものを紹介しよう。

昭和三十六年(一九六一)、航路標識事情を調査するため、北欧諸国を歴訪する公務出張の機会が与えられ、ロンドンでは真先にトリニティーハウスの本部を表敬訪問した。

トリニティーハウスというのは、一五一四年ヘンリー八世から法人団体設立の許可を受けた、非常に古い歴史を持つ英国特有の海事団体で、法令によって灯台税等の税金で事業費が賄われ、次の業務を実施している。

1、イングランドとウェールズ地方およびイングランド海峡の航路標識の維持管理(英国に三つある航路標識監理機関の一つ)

2、港湾以外の海域における水先関係業務

3、海事関係者に対する福祉活動本部事務所はロンドンの中心部―東京でいうと皇居周辺の高台―の公園広場にあり、その一角に両世界大戦における戦没船員の顕彰慰霊碑があった。

 

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ロンドンの中心部の公園広場にある戦没船員の顕彰慰霊碑

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碑文石に記された碑文と筆者訳文

 

用談後、所長の案内で拝礼し、大海運国の面目躍如たるものを見せつけられ、碑文の末尾にある「海よりほかに墓場を持たなかった」という崇高絶妙なフレーズに感動したことであった。

四十年経った今でもその一語一語をよく憶えている。右の写真と碑文は、本稿用に、日本海難防止協会ロンドン連絡事務所から電子メールで送付されたものである。

 

 

 

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