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IMOにおける海賊問題の検討

(社)日本海難防止協会ロンドン連絡事務所

所長 ?永重典(とくながしげのり)

 

はじめに

 

いつもより会場が騒がしく感じられたのは、第21回IMO総会二日目の十一月十七日のことでした。あちらこちらでロイズリストを持った人達が会話の輪を作り、十六日にアロンドラ・レインボー号がインド沿岸警備隊および海軍によって発見され拿捕されたとの記事を話題にしていたからです。

十六日にオニールIMO事務局長から、ア号の事件に触れつつ海賊問題への取り組みの重要性について述べられていたところであっただけに、この出来事は極めて時宜を得たもので、十七日の会議開始早々日本代表団からア号を拿捕したインドに対して謝意が述べられるとともに、効果的な海賊対策として国際的な協力が必要であり、日本としても積極的に協力するとのコメントが行われたのでした。

最近ア号事件のように組織犯罪グループの絡んだ事件が顕在化し、被害も甚大なものとなってきた海賊問題につき、海上の安全を専門とする国際海事機関(IMO=International Maritime Organization)において、今までどのような検討がなされてきたのか、また現時点でどのようなことが検討されているのかについて総論的に紹介します。

 

検討の端緒

 

海上における商船に対する海賊行為および武装強盗(以下「海賊行為等」という)の襲撃は、一九八〇年代当初に急激に増加したことから、一九八三年十一月に開催された第13回総会において、決議第五四五号「船舶に対する海賊行為及び武装強盗の防止策」(Resolution A.545(13))を採択した。

同決議では

(1) 関係各国政府に対し、最優先事項として管轄海域または隣接海域における船舶に対する海賊行為等の防止・抑制のため必要なあらゆる対策を講ずるよう強調する。

(2) 各国政府に対し、船主、船舶運航者、船長等に海賊行為等を防止しまたは被害を最小限とするための助言を行うよう要請する。

(3) 関係各国政府に対し、海賊行為等の発生した場所、その時の状況および沿岸国によって講じられた措置につき報告するよう要請する。

ことが盛り込まれるとともに、IMOにおいて海賊行為等の防止のため更なる行動をとることが確認された。

因みに国連では、一九九八年十一月の総会において、海賊行為等の脅威が高まっていることを憂慮し、決議「海洋及び海洋法」(Resolution A/RES/53/12)を採択し、IMOが実施中の活動を支援することを表明するとともに、すべての国、特に被害が発生している地域の沿岸各国に対し、海賊行為等を防止・抑圧するため、またそうした事件が発生した場合には、国際法に基づき、協力して捜査を行い、犯人とされる者を処断するために、必要かつ適切な措置を講じるよう求め、さらにIMOによる海賊行為等への取組みに対して、事件を報告するなど、全面的に協力するよう、各国に呼びかけている。

 

本格的な検討

 

(1) 決議第五四五号を受けて、海上安全委員会(MSC=Maritime Safety Committee)は一九八四年四月に開催された第49回MSC会合において「船舶に対する海賊行為及び武装強盗の防止」を作業計画上恒常的な検討項目とし、問題の所在を特定するため、できるだけ多くの関連情報を収集することが必要であるとの決定を行った。

 

 

 

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