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二 搬送概要等

必要資器材を2B車に積載、京都の地理に詳しい機関員と二名で徳島大学医学部附属病院へ向かうが、医師から当初の要請と異なり電源コンセントが必要との申し出により、急きょ高規格救急車に変更した。

患者は六歳の劇症肝炎の女児で、後日京都大学医学部附属病院で手術(生体肝移植)をする予定であったが、当日になって容体が急変し、高度の医療技術による早期の処置が必要で明朝まで待つことは難しく、救急車による緊急搬送が必要と判断したとのことである。

出場準備も整い、医師に取り囲まれながら気管内挿管され、バッグマスクにより補助呼吸を施されている幼い患者の上腕には、点滴のラインが痛ましい。

意識がないので搬送途中、「心肺機能停止状態になる確率は。」との救急隊員の問いに「患者の容体が急変したことと、体力的な問題から意図的に投薬により意識を落としており、心肺機能停止になる危険性はないとも言えないが、三時間程度の搬送なら心配ないと確信している。」と医師から回答を得た。

午前零時、患者を車内に収容し担当医師三名が同乗して徳島大学医学部附属病院を出発した。

搬送ルートは、開通後間もない神戸淡路・鳴門自動車道、山陽道、中国道を選択、吹田を通り名神高速自動車道に達したのは、午前一時五〇分であった。

途中、京都南インターチェンジで、京都市消防局安全救急部災害情報管理課と携帯電話により交信、事前に当方通信指令室から連絡済みとのことで、京都大学医学部附属病院への進入道路の案内指示を受けた。

午前二時四四分、同大学病院に到着。

走行距離約二〇〇km、二時間四四分の転院搬送、慌ただしく待ち受けていた先方医師団とともに、救急処置室への収容となる。

女児の安否を気遣いながらも、一連の転院搬送を終え、一時間程して同行医師とともに帰途に就き午前八時過ぎ帰署した。

 

三 今後の課題等

この救急事案が、最近の臓器移植、生体間臓器移植の流れを受けてか、『関係機関には一日も早い搬送体制の整備確立が求められる。』との論調が地方新聞に掲載されるなど、私達が予想もしなかった海峡を越えての管轄外搬送は、また今後あり得ることとして一石を投じた形となった。

今回の管轄外搬送による課題等について

(一) 夜間の転院搬送であることから、徳島県消防防災ヘリコプターによる搬送が断念されたこと。

(ただ、患者の容体からヘリコプターによる搬送が適当かどうかということもある。)

(二) 患者の容体が急変したことにより、医療器具を装着した患者受け渡しによる、各消防本部との連携搬送が時間的に困難であると結論付けられたこと。

(三) 本市における今までの転院搬送は、市内及び近隣市町村に限られていたため、長距離転院搬送は初めての事例であり出場の判断に苦慮したこと。

(四) 長距離搬送の場合、安全管理面から機関員を複数同乗させる必要があること。

(五) 県外搬送のため、地理に精通している職員が少ないこと。

等多くの課題が残された。

今回体験した、タイムリミットの伴う生体肝移植患者の管轄外搬送の問題は、思ったよりも消防機関にとっては重要な事柄に驚くばかりである。

徳島県は、前述のとおり近畿圏と陸続きとなり、阪神方面には毎日八一往復の高速バスの運行、更に京都まで三時間の高速バス六便の開通により、近畿方面への交通時間が大幅に短縮されるなど近畿圏との人・物とも交流が大幅に増えてきた。

また、四国内でも高速道路網の整備により四国県都も縦横に結ばれる時期も間近である。

 

 

 

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