そして、「住宅事情」を転居理由にあげた者も、遠距離移動者に比べて高い。次に、近距離移動には、6歳未満の小さな子どもをもつ女性の割合が、他と比較して高く、また「育児環境」を転居理由としてあげる者の割合も顕著に高い。また、区内移動者同様、このグループの女性は就業割合も、遠距離移動者と比べて高い。したがって、子育て支援サービスに対する需要や必要性が高く、またそのようなサービスが誘因となって移動してきた者が東京の他地域および近県からの移動者に多かった。一方、遠距離移動者には、仕事を転居理由とする者の割合が他の2つのグループに比べて高く、また小さな子どもをもつ者の割合は比較的低く、就業割合も低い。そして、江戸川区に住宅を所有しローンを払っている者の割合は低い。ここから、このグループは、現時点で判断する限り、区の子育て支援サービスに対する需要は比較的低いと考えられる。
また、転居後の居住意識および生活環境の変化をめぐる意見から、現住所に住み続けたいとする者の割合は約6割強であり、居住意思は相対的に高い。また、3つの移動タイプ別の差異をみると、3つのグループのうち近距離移動者が最も強い居住意思をもっており、約7割が現住地にできれば住み続けたいと回答していた。また、「転居してよかった」と回答した人の割合も、全体の3分の2と好感度は高いが、移動タイプ別にみると近距離移動者が最も高く、約4分の3が肯定的な意見を示していた。そしてこのグループはまた、子育て環境についてもよくなったとする割合が他に比べて高く、江戸川区側の子育て支援サービスは、東京の他地域および近県からの移入の重要な誘因になっているだけでなく、実際に移入者から高い評価を得ていることが示唆された。なお、転居によって子育て環境が悪くなったとする者は3つの移動グループを通じて少数派であり、江戸川区の子育て環境への評価はおおむね良好であるといえる。しかし一方、住宅事情については評価に大きな差異があり、区内移動者と近距離移動者の評価はおおむね肯定的であるのに対し、遠距離移動者の評価は過半数が悪化したと答えていた。これは東京とその近県の住宅事情の劣悪さを示唆しているとも考えられるが、同時に住環境一般を向上させる努力が行政を含め地域全体に求められているとも考えることができる。
参考文献
江戸川区.1997.『第28回統計江戸川平成9年版』.
東京都.1999.『データでみる東京の保育』.
Greene, William H.1993. Econometric Analysis. 3rd edition.New Jersey : Prentice Hall.
Retherford, Robert D.and Minja Kim Choe.1993. Statistical Models for Causal Analysis. New York : John Wiley and Sons.