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心を育てる教育への突破口「体験」がもたらすもの

 

この「介護等体験特例法」が成立した直後、「教員採用試験に合格した学生だけにしてほしい」という声を聞いたことがあった。成立の経緯から見て、現場関係者の多くが強い不満を持ち、あまり積極的に捉えられていないのではないかという思いもあった。

しかし、今回、「せっかく導入された制度だから学生にとって本当に意味ある体験になるようにしていきたい」という声が大学側からも受け入れ側からも多く聞かれ、少なくとも取材先の大学や施設では目的通りのものになるよう努力されていることがわかってうれしかった。

まだはじまったばかりで課題はいろいろあるものの、実施されたことで今後の福祉やボランティア活動の発展に大きな影響を与えるだろうし、また、そのように展開していかなければならないと思う。

たとえば、体験学生を受け入れることで今まで閉ざされていた施設が少しずつ開かれていくだろう。学生を通して市民の目に触れることで、利用者の居住環境や職員の勤務条件等が改善されていくことも期待できる。また、学生のボランティア活動への参加の拡大を働きかけていくきっかけにもできる。さらには、現職教員の体験に拡大することも可能だ。そもそも、この介護等体験は自民党の「教員資格取得希望者の教育実習に関する小委員会」(田中真紀子委員長)で、教員の資質の向上策の一環として検討されてきたものだ。前述の文部省平野係長からいただいた田中真紀子議員の対談の資料に「本当はみんなが介護体験すべきだが、できないのでまずは教員から」とあった。昨夏、私が研修で行ったドイツでは、「ボランティア社会年」「ボランティア環境年」と称して、一八歳以上の青年が一年間ボランティアに参加する制度があった。今回のこの制度が、教員の資質向上だけでなく、日本人みんなの心を育てる教育への転換と、学生の社会貢献の突破口になってほしいと私の期待は大きい。

 

 

 

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