新潟県柏崎市の鴨下已榮子さん(六七)は以前ヘルパーをしていたせいか、市内の実家へ戻るたびに、隣家のSさん(八四)のことが気になって仕方がありません。若いころ婿に入ったものの、その後東京へ。老後に障害を得て一人で帰郷した彼は、家に閉じこもり、保健婦などが来ても「役人は大嫌いだ!」などと言って、玄関払いを食わせるありさまです。
「それなら私のようなフツーの人間ならいいのでは? せめて身の回りのことだけでも」と恐る恐る扉を開けてみたら、家の中はゴミの山! 勝手に掃除をはじめる彼女に、「何しに来た」と奥の部屋から顔も出さない。それでも気さくに通い続ける彼女に根負けしたか、少しずつ打ち解けてきました。
それにしてもこの孤立状態は何とかしなければと思案した彼女、Sさんの庭で洗濯物を干しながら、通りがかりの人に「お茶でもどう?」と声ををかけてみました。初めは反応しなかった人たちも、何度か勧められると「本当にいいの?」と興味を示すようになり、最近ではSさん宅で近隣の主婦たちの井戸端会議(それも二、三組の)が開かれるまでになったといいます。それだけでなく彼のために定期的にたばこを買って来てくれる人もいるようなのです。反対に、彼に悩みを打ち明けに来る人もいるといいますから、Sさん宅はもはやミニ福祉センターといってもいいかもしれません。
「こじあけ屋」が突破口を開き、他の人も入れるようにお膳立てをしてくれれば、このように見事なほどに「閉じた家」をその反対の「開いた家」に逆転させることもできるのだと証明してくれました。
近隣型助け合いとは…?
お互いの顔が見え、生活の内情がわかりあっている近隣の住民同士が、お互いの心を大切にしながら、日常生活の営みの中で、『自然流』に身の回りのお世話や家事、介護、食事づくりなど生活するために必要なことを互いに支え合い、助け合うことをいいます。