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私の記憶違いだったら謝りますが、確か一休禅師の最期の言葉が「まだ死にたくない」だった、と何かの本に書いてありました。悟りの境地に入っていたはずの一休さんですら、生への執着を持っていたのだと知って、私はホッとした記憶があります。そこで、お答えになるかどうかわかりませんが、私が検事在職中に経験したあることをお話ししてみたいと思います。

もう三〇年も前のことですが、ある事件で火葬場の実地検証をしたことがあります。その地方では、燃料に石炭を使っていました。私は、炭火で焼かれるサンマの姿を想像して、嫌だなあと思いました。ところが、小さな裏窓から見た炉の中は神々しいばかりの真っ白な世界で、目を凝らすと、白い炎の中にうっすらと黒い遺体の影が見えるのです。私は、その時「ああ、人間はこのように白光に包まれながら昇天するのだ!」と、思わず心の中で叫びました。その瞬間、私は死の恐怖から解放されたような気がします。

一〇三歳の女性の遺言公正証書を作成した時のことですが、死ぬということは懐かしい人たちに会いに行くことなので、ちっとも怖くないと言っていたことが印象的でした。

死は安らぎへの回帰だと達観し、毎日楽しく生きることに努めましょうね。

 

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