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当世高齢事情 No.6

 

社会の高齢化により、従来の慣習や一人一人のものの考え方もどんどん変わってきました。特にお金が絡んでくると問題はさらに深刻。そんな当世の高齢事情をもっとも身近に見ている公証人の方に道しるべのアドバイスをお願いするシリーズ。さて、あなたはどんな生き方を選択しますか?

 

悟れない私

回答者 清水勇男

蒲田公証役場・公証人

 

Q 長男夫婦と同居しています。嫁もやさしくしてくれますし、可愛い孫もいます。主人は一〇年前に亡くなりましたが、まとまった財産を残しておいてくれたおかげで、お小遣いに困るということもなく、幸せな老後だと思っています。しかし、七二歳にもなって、いつお迎えが来てもおかしくない年だというのに、私は死が恐ろしくてたまりません。このごろ臓器移植が少しずつ行われるようになりましたが、私にはドナーカードを作る気持ちなど全くありません。もし臓器摘出の最中にハッと意識が戻ったらどうなるか、などと考えたりします。もっと怖いのは、火葬場の炉の中に入れられてお棺に火が点(つ)いた瞬間に生き返ったらどうしよう、と想像したときです。助けてと叫んでも、もう手遅れで生きながら焼き殺されてしまうことになります。そんなこと絶対にあり得ないとわかっていても、恐ろしくてたまらないのです。どうしてこう悟りが開けないのかと思うと、自分ながら情けなく、嫌になってしまいます。宗教心のない私には、天国や極楽があるとはとても思えません。どうしたら、こういう自分から脱却して平静な気持ちで死を受け容(い)れることができるのでしょうか。

 

A これはむずかしい。この欄の執筆を安易に引き受けてしまった自分の軽率さに腹が立ちます。しかし、筆を投げるわけにはいきませんので、重い気持ちを引きずりながら原稿のマス目を埋めていくことにします。

 

 

 

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