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仮設の隣人に頼まれて便利大工のように用を足してあげているうちに世話係のようになってしまったのだという。

長田で先代のときからの魚屋を営んでいた龍田さんも、つぶれた市場の再建に力を尽くし、思いがけず会計の事務を引き受けることになった。震災後、過労から五三歳の若さで倒れた妻を偲びながらも若いころから趣味だったジャズバンド活動を本格的に開始し、川縁の仮設市場でがんばってきた。「神様が人生を考えさせてくれた。金もうけだけではつまらない。好きな音楽を精一杯続けますよ」とほほ笑む。

今、神戸では「しみん基金・KOBE」という運動が進められている。行政だけを当てにせず、企業や市民など民間から協力金を募って、まちの新たな復興のための活動を市民として支えていこうというものだ。昨秋から有志が立ち上がり、七月の設立総会を経て現在NPO法人化を進めている。こうした市民の自発的な動きに対し神戸市も「しみん基金」の活動拠点に遊休施設の老人憩いの家を提供するなど支援体制を見せている。

震災直後、周辺の避難所に連絡を取って弁当が公平に配給されるように交渉し、そんなもめ事からいつのまにかボランティアをはじめた人がいた。もっぱらトイレの掃除をしていたボランティアグループもいた。以後、恒久住宅への引っ越し手伝いや給食、訪問物資配布などでも活躍していたボランティアも、仮設解消に伴い、活動に終止符を打ちつつある。その一方で、移転先の地域で自立をうながす活動や、閉じこもり老人への働きかけなど、新たに支え合う力が望まれてもいる。

今回、期せずして多くの人から神、運命、あるいは転機という言葉が漏れた。運命を呪って愚痴をこぼしていても状況は良くはならないと、それぞれの道への明るい視線が感じられたのが、正直うれしかった。仮設が閉鎖され、神戸復興は今、胎動からまさに本格的な始動へとアクセルが踏み込まれている。

 

 

 

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