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A子についても、そのことを理解し、A子の不満や痛み、傷つきに共感し、無条件にA子を受容し、温かく包んでやろうと思った。A子が一人前の女性に、大人になるために、どうしても越えなければならないハードルを、ともに越える努力を惜しみなく続けようと考えた。朝ごとにちがうハードルが待ち受け困ったが、避けて通ってはならないと言い聞かせた。

(14) 舞いおりた縁談

そんな日々をくり返し送っていた初冬の昼下がり、事もあろうに二つの縁談がとびこんできた。A子がどんなに喜ぶだろうと思い、帰りを待った。車の音に気づいた私は外に出て彼女を迎えると、A子がいきなり「今日ね、結婚の話があったんだよ」と、にんまりしながら話し出したので、私はとても驚いた。その夜は、A子と遅くまで語り明かした。

そして、半年ほどの交際を経て、A子は同じ調理師の青年と結ばれた。彼の働くホテルで挙式し、大勢の人々から祝福を受け、私共のもとから旅立っていったのである。

 

 

 

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