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これは、地に方形に廻らした注連のなかに、十二本の御幣を突き立てて、この中に香華・五味粥を撒き献ずるもので、梵天・帝釈天をはじめとする十二天の供養を目的とするものである(図5]参照)。ちなみに、東大寺お水取りの創始や、その諸作法についての由来を説く『二月堂縁起』には、行法の妨げをなそうとする天狗の様子が描かれており、古代・中世人が招かれざる悪鬼・邪霊をいかなるイメージで認識していたのかが明瞭にうかがわれて興味深い。(5])

なお、神供の作法は「花会式(はなえしき)」の名で知られる薬師寺の修二会においても行われている。これは、会場となる金堂外東の壁に背を向けて練行衆一同が並び、地に御幣を立てて松明にてこれを燃やし、さらにその松明を東方へ放り投げるものであるが、やはり結界を巡らした会場の外で精霊を供養するものである。(6])

ところで、先に見た興福寺慈恩会の竪儀加行(けぎょう)においては、行者に従事して雑務を行う童子が、御幣を手にして、行部屋に見舞いに訪れる在家信徒に対して「中臣秡」による祓を行う。この祓詞は、いわゆる中臣祓に、その冒頭に東・南・西・北・中央の五帝龍王の勧請の句がついた陰陽道色の強い中臣祓である。実は、お水取りの大中臣祓でも五帝龍王の勧請の句が読まれ、さらに宿曜や梵天・帝釈・十二神等の諸天神祓の勧請句がついており、こうした陰陽道的傾向はさらに顕著である。

 

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6]薬師寺花会式 神供作法(植田英介撮影)

 

また日々の行においても各練行衆は入浴の後等に自身に対する潔めとして「中臣祓」を黙誦する。このとき用いられる御幣は長さ約二五センチ(このうち幣部分は七センチ)、径一センチほどのものであるが、竹の幣串には祓詞を記した楮紙が巻き付けられている。すなわち幣串が軸となった小さな巻子様の形態をしているわけであるが、これがぴったりと入る紙の筒に収められており、外見は筒が幣串となってその上部に御幣が付けられているように見える。(7])

この祓詞の全文は次のごとくで、「拍手祓(かしわでのはらえ)」と「神道秘訣秡」の二段より構成され、いわゆる中臣祓を変形させたものであることは明らかであるが、ここでは両部神道的特徴を指摘したい。

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