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「録音に残された、幾多の、今は亡き放浪諸芸の人々と小沢との会話を聞いていると、互いに深くつながった仲間同士として交わされた、その時々のまなざしの優しさ、柔らかさがよみがえる。日本の街や道でひそやかに、時には大胆に闊歩してきた彼らは小沢昭一に巡り合い、それぞれの思いを託したのだ。」(市川 前述のパンフレットより)

小沢昭一に託された、漂泊の芸能人たちの”技”の数々、節や語りの色艶は、この度CDになって蘇り、永遠の生命を得ることとなった。私達はそこから何を学び、盗み、そして”再利用”(いとうせいこう 同パンフレットより)することができるだろうか。

「30年ほど前の、放浪の芸能探索のレコードが、またいまCDとして復刻されまして、感無量です。そこに収録させて頂いた方々が、私に伝えて下さったお志を、いま私がどれほど受けとめ、受け継いでいるかと自問すると、いささか恥ずかしい気持ちで一杯です。」一人芝居『唐来参和』で、全国津々浦々拍手大喝采の公演を続ける小沢昭一の言葉である。

森谷秀樹(ディレクター)   ビクター44000円(税別)

 

財団法人日本ナショナルトラストからのメッセージ

ふるさとの丈化……後藤恭彦

 

本州の最北端の青森は、下北半島側を太平洋に、津軽半島側を日本海に面し、北は津軽海峡に接した三面海に囲まれている。内陸部は、八甲田を主峰とする連山が続き、岩木山が美しい山容を見せている。

冬は、雪まじりの烈風が吹き荒れる下北半島に力強く生きる寒立馬。津軽平野の野づらに舞い上がる地吹雪、その中を走るストーブ列車。風雪にのって聞こえてくる津軽三味線の響き。それらは、自然環境の中で、すべて絶えながら生活をしている情景だ。

夏にヤマセ(東偏風)が吹くと決まって冷害が訪れ農作物が不作となる。従って農業の生産性が低く経済的にも後進の地方といわれている。このような風土が人々の性格を形成する。

一方、この地方の方言は、ズーズ弁であるためある種の劣等感が生じ、メグサイ(恥ずかしい)という消極的な気持ちが支配する。作家太宰治、詩人寺山修司に見られるように、神経が繊細で固有のはにかみが存在している。またシラフの時は抑圧が強く思ったことが言えないが、酒が入るとクダをまくことになり、そのことをゴンボホルというような方言で表現される。

版画の棟方志功、南島探検家の笹森儀助など特異な人物を生み出したのは、自分の道にジョッパリ(強情)を貫いた希有な例なのであろう。

抑圧された冬からの反動ともいえるパワーを爆発させるネブタ祭りの行事がある。武者を形どったネブタに連れて、大太鼓を叩き笛の囃しに合わせて、男女とも派手に飾った編み笠を被り浴衣を着て跳ねて踊る。東北を代表する夏の風物詩だ。

近年、青森三内丸山に巨大な縄文集落が存在していることが明らかになった。規模は竪穴住居跡約五百八十棟、竪穴大型住居跡十数棟、数多くの大人、子供の墓、盛り土、土器作りのための粘土採掘穴などを見ると、計画的な土地利用によって、集落を形成していたことが分かる。また、高度な技術で作られた漆器等、交易によって得たと思われるヒスイ、コハクなどが出土し、当時の生活水準の高さに驚かされる。

私は五千年前に計画的に集落を形成し、豊かな生活を送っていた縄文人の文化を起点として、今日までのこの地方の歴史、文化に目を向けてみたいと思っている。

<当財団専務理事>

 

 

 

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