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自然と文化 第62号「瀬戸内を生きた人びと」

 事業名 観光資源の調査及び保護思想の普及高揚
 団体名 日本観光振興協会 注目度注目度5


アジア游芸4]馬上の音楽[モンゴル]……梅津和時

 

この状態で、いったいどんな音楽が考えられる?

聴こえるものは耳元を通り過ぎるピュウピュウとのべつまくなしに鳴っている風の音と、規則的に弾むひずめが土を蹴る音だけだ。並み足や早足の時ならともかく、この駆け足という状態では、頭の中に他のどんな音も鳴り響いてはこない。

何しろ、私は空中を凄いスピードで飛んでいるのだ。馬の背に跨がっている、という形容はきっと当てはまらない。尻は鞍から浮き上がっているし、唯一接点になっている筈の足の裏も、鐙から離れてしまっている。おそらく、ほんの数センチなのだろうが、もうすでに足先で探す事のできない鐙は無いのも同じ、裸馬に跨がっているのと何の変わりもない。いや、私は、馬に引っ張られる凧のようなものだ。いつ振り落とされても何の不思議もない。

それでも私の心は少年のように踊っている。たずなを握り締める手は、革手袋の中でべとべとに汗をかき、金輪際、形を変えるものかとガチガチに固まっている。私のどこにこんな握力や、腕力があったのだろう?指は動くのか?今、呼吸をしているのか?つまらない考えが瞬時に頭に浮かび、一秒後には一〇メートル後ろの空間に残像となって引き剥がされる。

ひとりで走っていた訳ではない。コマッチャクレズマのバンド仲間も、リーダー格の内田さんも、たよりになる現地のインストラクターさんも、もちろん一緒だ。私はどちらかというと、最後尾にいて、馬も私が操っていたとは言いにくい。他の馬が走れば私の馬も走り、目の前の馬が止まれば私の馬も止まる。

だからこれは、馬自身にとっては、ただの団体競技だ。しかし命がけで乗っている私にとっては、逆に、ものすごく個人的な物事だ。振り落とされて死んでも、それがまったく個人的な事のように、走る事を楽しんでいる事も、それ自体、とても孤独な喜びのように思える。

モンゴルの草原は広い。あるものは草原と空だけだ。

ここの風景画には絵の具は緑と青だけ用意すれば良い。何処にでもいいから真直ぐに横に線を引いて、上を青、下を緑に塗り分ければそれで完成。

それほどに、たぶん本当に広い。たぶん、というのは距離を計る、適切な目安がないからだ。とりあえず、よく大きさの基準にハイライトの箱を置くように、遊牧民のテント、ゲルを目標にしてみたりするのだが、馬が走っている間に、地平線の向こうに消えてしまったりすると、地平線のはずれまでが、何キロぐらいなのかもまったく見当がつかない。

私の距離感覚というのは、どうも信号機の数だとか、電信柱の数のようなのだ。

昨日は、その地平線の彼方の遊牧民のゲルを訪れて、一晩泊めて頂いた。

車で三、四十分。目標を遮るものが無いのだから、ひたすら直線を進めば良い。そういった理由で、意外と時間はかかっていないのかもしれない。

全くのアポイントメント無しの訪問だった”らしい”のに、そこのゲルの主人は、私たち三人のよそ者を快く受け入れてくれた。ここから先、この”らしい”がずっと続く。なにせ、共通する言葉が何一つ無いのだ。

私はもちろん、同行の二人、小野寺さん、柴崎さんも、全くモンゴル語は解さない。

私たちはまるで子供のように、主人のジャマジーさんの後ろをくっついて歩くだけである。二人は写真、私はスケッチブックにマンガを描いて、コミュニケーションを計ろうと努力するが、こちらの推測があっているのかどうなのか分からない。

ジャマジーさんには八人の家族がいる”らしい”。奥さんと息子夫婦、四人の孫たち、そしてお婆ちゃん。”らしい”というのは、隣にバスを改造した家があって、そこにも何人か住んでいて、その家とジャマジー家の関係が分からない。

 

 

 

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