日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 歴史 > 地理.地誌.紀行 > 成果物情報

自然と文化 第61号「アジアの柱建て祭り」

 事業名 観光資源の調査及び保護思想の普及高揚
 団体名 日本観光振興協会 注目度注目度5


◎中部高原への取材◎

中部高原への出発のまえ、ハノイの友人たちにそのことをつげると、「中部高原は面白いところと聞いているが、気候が変わるから気をつけろ」とまるで異国に旅立つように忠告してくれた。ベトナム語では中部高原はタングエンとよばれ、その言葉には異境の地といった響きが込められている。

中部高原とは、中部最大の都市ダナン(現在は特別市)のあるクアンナム省の西部、ラオスとの国境沿いに始まり、南ヘコントム省、ザライ省、ダックラク省、ロンドム省にまたがる標高千メートル前後の高原地帯をいう。

ベトナムは、政府が公認した民族単位で、五四にのぼる多民族国家だが、人口の九〇パーセントはヴェト(越)人が占めている。彼らは自らをキン(京)人と自称し、元来、水田稲作に長けた人々で近年まで中部高原などの山地には興味をほとんど示さなかった。一〇世紀中国からの支配を脱したキン人たちが、中部のチャンパ国(マレー語系)の領土を蚕食しながら南下した際もひたすら海岸沿いの平地に展開していったため、中部高原はもっぱら、モンクメール語系やマレー語系の先住民の天地として保たれてきた。余談だが、中部高原の代表的二つの都市、プレイクーとボンメトートの名の由来は、プレイはザライ語で村、クーとは馬のシッポで、ボンはモノン語で村(土地)、メトートはトート翁という人名で、トート翁の村ということになる。このように中部高原の地名はほとんどが先住民たちに縁をもっている。先住民の世界に異変が起きたのは、フランスの植民地支配がこの地に及んでからである。現在では多くのキン人がデルタから入植してきているが、数十年前のハノイの人たちにとってはタングエンは異境の地だったのである。

ハノイを飛び立ったプロペラ機はザライ省の省都プレイクーに着陸した。

飛行機を降りてそこで見た光景は、私をベトナム戦争という現実に引き戻してしまった。この旅の前に一巡した越中国境では、今後の取材の手応えを得ていただけに、半壊したレーダーサイトや格納庫が残骸をさらす光景は、場違いなところに来てしまったと思わせるに十分だった。しかも、市内へ向かう道路沿いには薬莢(やっきょう)などの戦争廃棄物がうず高くつまれた屑鉄屋が軒を並べ、戦場そのままの殺伐とした景観である。おまけに案内された宿舎は道路に面した四隅にトーチカが銃眼を開いている。なんでも南ベトナム政府軍の将軍の使っていた邸宅だという。夜、司令官も寝たであろう巨大なダブルベッドに体を横たえた私の脳裏に、なにか勘違いしていたような後ろめたさが過(よ)ぎった。ここはあの世界史にも残る凄惨な戦争が行なわれたところである。この街も人々もあの惨禍から立直っていない。ここでの民族文化の取材など、どこかトボケた話ではないかと不安になった。

 

◎戦略村で育った人々◎

翌日、省の文化情報部のスタッフは元気に案内を開始してくれた。彼らの話では、「これまで戦争の取材はあったが、文化の取材は全くなかった。貴重な仕事だ」と、意外と感動してくれているのである。しかし、案内された村々では、錆びたトタンの家が、一本の木もない荒れた土地に連なっているのである。人々は使い古したTシャツを身にまとい、見るからに疲れ切った様子である。これでは難民キャンプではないか。いや、まさしく難民キャンプなのである。基地周辺に造られた「戦略村」(べトナム戦争中アメリカ軍が住居を解放線から隔離するために造った村)に強制的に囲いこまれた人々は、基地の陥落と同時に難民として逃れ、戦闘の終了後、再び戻ってできた集落なのである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら

日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
696位
(35,690成果物中)

成果物アクセス数
16,655

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2023年6月3日

関連する他の成果物

1.二丈町姉子の浜の鳴き砂保全活用調査報告書
2.「玖島城址及び城下町武家屋敷街跡」調査報告書
3.「城下町彦根の町なみ?歴史的景観の調査と保存修景?」調査報告書
4.自然と文化 第62号「瀬戸内を生きた人びと」
5.自然と文化 第63号「御幣」
6.「下呂温泉まつり」ポスター
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から