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塗籠は1]「側面+軒裏+2階壁面(以下壁面とする)」、「軒裏+壁面」(軒裏と壁面が塗寵の場合は側面も塗籠とする)、2]「軒裏のみ」、「壁面のみ」、「側面+軒裏」、「側面+壁面」、3]「側面のみ」、4]「なし」と4つに分類し、それを低町家と高町家について比較した(表2-5)。

1]、2]、3]とも、塗籠がみられるのは低町家で、高町家が塗りこめられているものはほとんどない。そして、塗籠がある低町家の建築年代は、江戸期に集中していることがわかる。これは、2-3-2-11 2階開口部で述べる虫籠の結果と似ている。軒が低く、側面・軒裏・壁面が塗りこめてあって、2階に太い格子の虫籠のある町家が、江戸時代には彦根の町並みをつくっていた。

家を塗りこめることができたのは、富がある町人に限られていた、と述べたとおり、表2-5からも江戸期に塗籠がない低町家があるということがわかる。高町家に塗籠がないことと同様、長屋にも塗りこめているものはほとんどない。(図2-8)江戸時代の火災に対しての対策だった塗の手法が、時代がくだるにつれてだんだんその姿を消していくのは、消火の技術が進んだせいである。

2-3-2-5 袖壁

隣家との境界線のため、屋根を仕切るようにたちあげられた卯建が、住居の正面(ファサード)の2階部分にでてきたものが袖壁である。場所によっては袖壁のことをウダツという。

木造の家は火に弱く、いったん火事になってしまうとどんどん延焼していき、大火災になってしまう。住宅が密集している町家では、軒下を火炎がはしるようにして燃え広がる。それを未然に防ぐ対策のひとつが袖壁である。袖壁はいわゆる防火障壁であった。所によっては枠組みの木が露出しているものがあるが、防火壁として塗りこめているものが多い。

彦根では、袖壁がすべて塗りこめているもの(これは2階が塗りこめてあるものに多い)や、外側だけを塗りこめているものがよく見られた。袖壁は主に低町家についているといわれているが、高町家で袖壁がついているものもある。低町家の約64%、高町家の約34%に袖壁がつく(図2-9)。平屋もともと2階部分がないので袖壁はつけられないし、3階建てでは家全体のバランスが悪くなるので袖壁はつけなかったようだ。

家の両側が隣の家と接しているならば、袖壁も左右に付ける必要があると考えられるが、左右どちらかにしかついていない家もあった。袖壁が右のみが5%、左のみが5%存在した。これは年が経つにつれ、老朽化などの理由で袖壁をとってしまったと思われる。

長屋で袖壁がついている家は総計で23%(図2-10)で、町家の総計の50%と比べると半分の値である。低町家で袖壁をもつ家は65%であるが、低長屋では35%であることから、町家と長屋の総計の差はここであらわれているといえる。高町家と高長屋では、あまり差はみられない。町家の袖壁を建築年代でみると、袖壁が両方あるものは年代を追うごとに減少していき、なしのものが増えていっているとわかる。(図2-11)。袖壁は、建築年代が古い低町家のディテールで、高町家や長屋が建てられるようになる頃には袖壁をつける傾向はなくなっていたのである。

2-3-2-6 軒裏構造

平屋・低町家が主流であったころは軒が低かったため、軒裏が人目につくということがなかった。そのため、小屋組みの垂木をそのままにした軒裏構造がないものや、簡単な腕木構造が多かった。腕木構造は、表柱途中から腕木をだして軒桁をうける構造で、比較的細い水平な腕木が特徴である。

彦根では、腕木構造があまりみられなかったが、平屋や低町家のほかに高町家でも腕木構造のものがあった。低町家で5%、高町家で8%であった(図4-7)。低町家と高町家ではほぼ同じ割合をしめしている。

一般的に大正期に入ると、高町家とともに普及してくるといわれているものにせがい構造がある。せがい構造とは、2階の軒高が高くなり、おもての道からみると軒裏が目につきやすい位置にあることから、軒裏にデザイン性をもたせたものである。表柱上部に桁をのせ、柱位置だけでなく、その中間からも腕木をだして軒桁をうける構造で、腕木上部に棚状の小天井を張った形式である。この小天井と、柱と柱の中間位置にも腕木のあることが特徴である。

このようなせがい構造が、彦根では江戸期からすでに存在(図4-9)し、高町家だけでなく、低町家にもせがい構造が多いという点はみのがせない。(図4-7)から、低町家でせがい構造は50%、高町家は64%である。低町家に比べると、高町家のほうがせがい構造の割合が高いが、低町家は建築年代が古いということを考えると、この数値は高い。つまり、彦根の町人は早くから軒裏に装飾性の高いせがい構造をとりいれていた。

 

 

 

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