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聞くこと、訊くこと、そして聴くということ

 

コミュニケーションの壁というのは、まとめて言ってしまえば、いかにきちんと聞いているかということです。“聞く”という漢字は、門の中に耳が入っています。耳できちんと聞いていると、出来事とか事柄は、ほとんど完璧に聞き取ることができるといわれます。

もうひとつの“訊く”という字がありますが、これは口、つまり言葉で質問をするという意味です。

もうひとつに“聴く”があります。この字には耳と心が入っています。ですから耳だけで聞いているのではなくて、相手が何を言おうとしているのかなというこころをこめて聴くという聴き方です。英語でいえば、音で聞くのは“hear”ですが、“listen”が聴くほうにあてはまるでしょう。これは耳で音としてとらえる、出来事としてとらえるだけではなくて、その人が何を伝えようとしているのか、何を言っていて何を言わないでいるのか、言いながらどんなゼスチュアをしているか、どんな気持ちなのか、そこまできちんと見ながら聴いていることです。

漢字は非常によくできていて、“答える”という字には口が入っています。もう一つ応答の“応”という字には心が入っています。ですからこころで聴いて、こころで応えるということで、コミュニケーションの本当の意味というのは、出来事としてだけとらえるのではなくて、相手が伝えたいことをこちらもきちんとこころで受け止められるようになることではないかと思います。

ここでも大事なことは、勝手に決めてしまって、この方はこのように思っているであろうと思うととんだ間違いということもあるわけで、相手が何を伝えようとしているのか、それをきちんと伝えられるかということの繰り返しがコミュニケーションになっていくのだと思います。

 

本誌は、1999年9月5日に開催した(財)ライフ プランニング センターの国際フォーラムにおいて話された「医療のなかのコミュニケーション」に加筆してまとめたものです。

 

 

 

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