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それはそれで仕方ないですが、しかし一般的な治癒と癒しとを、同等に考えてしまうことは、どうも少し浅はかなものがあるのではないかと私は思っているのです。

 

慰さめはいつでもできる

 

それと同時に、このパレの言葉なのかどうかわからないといわれてもいるのですが、ソクラテスとか、ナイチンゲールもそれと同じことをいっているとか、あるいはトルドーの言葉ではないかともいわれているのですが、もう一つ有名な言葉があります。それは「時には癒すが、またしばしば和(なご)めることはできる。しかし、慰めることはいつでもできる」。時々しか治すことはできない、完全に治癒させるなどということはたまにしかできないことなのだ。これは16世紀にあっては痛切に感じたことだと思います。今だって、ある意味では、がんの患者さんにしてもそんなに簡単に根治して再発もさせないということをやれるわけではなく、時には治癒させることができる、そして時々は症状を和らげたり、進行を止めたりすることはできます。しかし、慰めることはいつでもできるのだから、このいつでもできることを大切にすべきだということです。これも有名な言葉です。「いつも慰めることはできる」というところに重きがあります。

ところが、どうしても医術というものを強く追求する、あるいはそれに執着すると、ときたましか治せないことに全力を集中してしまい、「時々は和めることはできる、しかし、いつもできる慰め」というこを忘れてしまったというか、熱心でなくってしまった。これが現代医学の大きな欠陥ということです。

 

 

 

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