チェルノブイリ原発事故被災児の検診成績 II
―“チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクト1991-1996”より―
山下俊一*/柴田義貞*/星正治*/藤村欣吾*/ほか**
3 成績(つづき)
2) 甲状腺検診5,6,7,8,9)
1991-1996年の5年間に、3共和国の5センターで甲状腺超音波画像診断装置により記録された画像は半永久的に当初はフロッピーディスク、その後は光ディスクに蓄積され、既に延べ16万人以上のデータ(1人11枚ずつ)が保管されてデータバンクとなっている。さらに一人一人の血液採取後、血中の甲状腺ホルモンや自己抗体が測定され、1993年以降は、尿中ヨードも必要によりモギリョフとキエフのセンターで測定されてきた。これらの血清や尿のサンプルもすべて現地の各センターに冷凍保存されている。1996年4月の本プロジェクト終了時点では約12万人の問診票や各種データが集約され、種々の甲状腺異常が発見されている(表4)。
元来、ヨード不足地域であるチェルノブイリ周辺では、それによる甲状腺腫の頻度が高いが、食塩に無機ヨードを添加したり、ヨード剤を学校などで予防的に投与したりしているため、地域によって頻度にばらつきがある。しかし、実際に井戸水や水道水のヨード含量を測定すると極めて低値であり、土壌に含まれるヨード(あるいは他のハロゲン化合物)も低いことが判明している(図6)。
特に、キエフ州やジトミール州では尿中ヨード排泄量が低いことに反比例して子供達に甲状腺腫が多くみられた。甲状腺腫の地域別有所見者の頻度は、尿中ヨード濃度に反比例することが確認された(図7)。また、性・年齢別に全体の甲状腺腫の頻度を解析すると、男女とも年齢依存性があり、思春期の到来に伴い女子の方に多く甲状腺腫が認められた(図8)。