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測定結果を性・年齢別および州別に比較すると、まずモギリョフ、ゴメリ、キエフ、ジトミール、ブリヤンスク州の結果全体については性と年齢による違いはほとんどない(図3)。州別にはブリヤンスクがやや高くみえるが、細かくその中の地区別にみると、最も汚染のひどいゴメリ州の場合はいくつかの地区で体重当たり放射線量の中央値が100Bq/kgを超えている(図4)。この図からも分るとおり、ほとんどの地区では中央値が50Bq/kg以下である。確かにわれわれ日本人はせいぜい数Bq/kgであるので、これらの値は日本人に比較すれば大きい。しかし、1000Bq/kgのセシウム137を体内に保有する人が生涯に被曝する線量は0.97mSvである。一方、年間の自然放射線量が全世界どこでも2mSvくらいである。それを考えれば、チェルノブイリ近郊住民のセシウム体内量は1年間の自然放射線による被曝の量に比べてずっと少ないといえる。

ただ、セシウムについては体内から排出される生物学的半減期は約100日とされているものの、事故直後にはヨードに代表される内部被曝の原因となった核種がほかにも数多くあったはずであり、さらにはガンマ線による外部被曝の程度がまだ十分には分っていないなど、不明の点がまだまだ残されている。今後は事故直後からの被曝線量の評価を核種別、内部外部被曝の別に総合的に行い、この地域の放射線の影響を考察する必要がある。

旧ソ連調査のセシウム137による土壌汚染と、その体内量の地区ごとの中央値との関係をみると、セシウム137の土壌汚染と体内放射線量との間に相関関係のあることが分る(図5)。理由として、旧ソ連地域では家毎に畑が与えられ、自分の食べる分をそこで作っていたことが挙げられる。

 

参考文献

1) Yamashita, S., Shibata, Y. (Ed.), Chernobyl:A Decade, Proceedings of the Fifth Chernobyl Sasakawa Medical Cooperation Symposium, Kiev, Ukraine, 14-15 October 1996, Elsevier, Amsterdam, 1997.

2) チェルノブイリ原発事故医療協力調査団報告書、(財)笹川記念保健協力財団、1990年8月

3) Hoshi, M., Shibata, Y., Okajima, S. et al.. 137Cs concentration among children in areas contaminated with radioactive fallout from the Chernobyl accident: Mogilev and Gomel oblasts, Belarus. Health Phys. 67: 272-275, 1994.

4) Hoshi., M., Yamamoto, M., Kawamura, H. et al. Fallout radioactivity in soil and food samples in the Ukraine: Measurements of iodine, plutonium, cesium, and strontium isotopes. Health Phys. 67: 187-191, 1994.

(次号および次々号につづく)

 

 

 

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