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従って、日本の地域通貨は地域内の商店での買い物などに使えるものは少ない。将来は、特定の商店街などだけで使える地域商品券などとの連動もあり得るだろう。だが、日本における地域通貨のやり取りは経済行為ではなく、思いやりが出発点にあることを忘れてはならない。

性格の違いは、発足の動機の違いと関連がある。LETSは、不況時に市民の相互扶助組織として成長した。失業者でも自らの特技や能力を活用して、報酬を受け取り、生活の助けにすることができるからである。従って、失業救済対策としての色合いが濃い。これに対し、日本の地域通貨は、コミュニティの振興や高齢社会への対応などがきっかけとなっている。出発点が違うのだから、欧米のように、失業対策としての色合いが薄いのは止むを得ない。

取り引きの対象も異なる、LETSや日本の地域通貨は、地域に関わる幅広い分野を対象としている。これに対し、タイムドルは介護など福祉の分野だけを対象としていることが多い。

価値の評価の仕方も相違する。LETSや日本の地域通貨が財やサービスの内容によって価値を多面的に評価するのに対して、タイムドルはそうした質の違いは無視して時間だけを画一的に換算する。つまり、LETSや日本の地域通貨は、当事者間の自由な値決めを前提としていることが多い。一方、タイムドルは1時間当たり1タイムドルといった具合にあらかじめ決まっている。タイムドルは単に時間だけで判断するから市場価値との連動性はない。LETSは商品の購入に使えることもあり、連動性がある。エコマネーは一部の地域通貨に連動性がある。

 

5 普及、定着の条件

 

地域通貨は、それ自体に弱点を内包している。例えば、口座方式の場合、残高がマイナスでもそれを返済する義務はないから、サービスだけ受けて脱会する人が続出したりすると、運営そのものが困難をきたす。継続していく中で、サービスを提供する側と、それを必要とする側のニーズのずれも出てくるに違いない。モノやサービスの交換価値をどう客観的に評価するかといった問題も常につきまとう。

こうした弱点を克服して、これを普及、定着させるにはどんな点に着目したらよいのだろうか。ここでは、地域通貨を定着させる5つの要件を提示する。

 

(1) 継続性

継続性は5つの条件中、最も上位の条件である。貯蓄して、使う段階になって、単なる紙切れになったのでは困る。「通貨」の発行に責任を持つ団体が、その使命や責任を自覚する必要がある。実験を始めたものの、それだけで終わってしまった地域もある。継続性を保つには、1企業や1個人だけに頼らず、組織として運営することが肝要である。それには、しっかりした事務局体制を整備しなければなるまい。

 

(2) 自発性

地域通貨はもともと、それに賛同する人たちが自主的につくった仕組みであり、加入を強制しているわけではない。ところが、続けていくうちに、サービスを提供したり、これを受けたりする活動に参加しない人が出がちだ。こんな人が増えると、通貨は死蔵してしまう。積極的にサービスや財を提供しあうことが望まれる。

 

(3) 信頼性

市民や参加者の信頼を得ることも欠くことのできない条件である。江戸時代の藩札は、藩の中ではいつでも使えるという信頼感が支えていた。先に見たように弱点を内包しているだけに、信頼性は重要である。それはコミュニティ活動への信頼性にも通じる。

 

(4) 地域性

流通させる範囲や規模も重要である。どの国の地域通貨も図柄や印刷が精巧とはいえない。しかし、"にせ札"が出回る恐れはない。顔見知り同士でやりとりすることが多いからである。日本でも、信用を維持するためには、団地など参加者が顔身知りであるくらいの範囲が望ましい。大きくなりそうな場合は、自治会など比較的小さなコミュニティごとに分割することもひとつの方法である。

 

(5) 共有性

参加者の事業に対する理解や価値観を共有することも大事だ。地域通貨の基盤は市民の助け合いにあることを理解し、それを地域の価値観として共有することである。換算する価値に過度にこだわるのはよくない。

これら5つの原則はどれが欠けても定着が困難になるだろう。5つの要件の関係を見よう(図表2)。自発性、信頼性、地域性、共有性は継続性を支える。

 

 

 

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