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21世紀は4人に1人が高齢者という時代。要介護高齢者数も増大するが、高齢者の8割以上が元気なお年寄りであるともいえる。元気であるが身体機能が緩やかに低下している人たちが利用しやすい製品や環境が整っていない。

こういう状況下まちづくりの推進に、二つの課題がある。

・バリアフリーからユニバーサルデザインへのまちづくりの発想の転換

・地域交通網(線的視点)とコミュニティ(面的視点)の必要性

国も各省庁で諸施策を展開しているが、まちづくりは地域の事情を勘案し諸施策の組み合わせによって効果を発揮させることが望ましい。自治省でも、地方交付税の優遇措置を講じてユニバーサルデザインによるまちづくりを支援する「共生のまち推進事業」を新設した。

最近の取り組み事例を紹介する。まちなかに電動スクーター、電動歩行車を走らせ、みんながショッピングや映画鑑賞などを楽しめるようにしようというタウンモビリティ構想は、広島市などで推進されている。小型の車両による市街地循環型のバス運行は、武蔵野市で実施されている。

また、静岡県はユニバーサルデザイン室を設置し、「モデルまちづくり計画」の策定に取り組み、島田市は中心市街地の活性化をユニバーサルデザインを意識して行おうとしている。

まちづくりはハード面に加えてソフト面の補完が必須である。

 

2 モノづくりは、垣根を取り払えばもっとよくなる(今竹翠)

 

大阪府は、早くから「福祉のまちづくり条例」の制定や「エイジレスデザイン研究」などを推進し、環境分野でもISO14000を取得した。エイジレスデザイン研究は、比較的元気なお年寄りを対象とした商品開発のあり方を提案するもので、企業との共同開発研究の成果が商品となりつつある。

これまで商品のデザインについては、通産省(大阪府は商工部)が所管してきたが、各担当省庁の政策や施策をリンクさせたものづくりというものが必要ではないか。都市公園は最初、都市労働者のストレスを除去するために造られた。そこにはベンチなど工業製品がおかれている。都市公園は、建設省や農林水産省だけでなく、労働省(労働部)、厚生省(福祉部)、通産省(商工部)あるいは自治省の所管ともいえ、公園だけを考えても多くの行政機関の関わりがある。この各機関が行う施策をリンクさせ新しいものや環境のあり方を提案していくのがデザイナーの役割となる。

ボストン郊外のアーノルド森林植物公園は、来園者に園内の廃棄物のリサイクルやリユースの仕組みがわかるようにデザインされている。全米第二位の集客力を誇るシカゴ植物園では、高齢者、障害者、幼児のためのエリアが設定され、自然環境の保全や植物や土に対する親しみに工夫が施されている。また、剪定バサミなどそこで使用される商品(道具)も無数にある。一見産業と無関係と思われる場所にも商品開発のネタは数多くあり、それをうまく活用した企業は利益を上げることができる。このようなことに着眼し仕組みをつくりだすのもデザイナーの役割である。

 

3 ヒトづくりは、個性尊重型の社会システムから(早瀬昇)

 

私は、学生時代に地下鉄の駅にエレベータを設置させる運動を起こし、そのなかで障害者とも親しくなり、ボランティアに関わりを持った。

かつては電動車椅子は輸入品であり、日本で使用するために取っ手の取り付けが義務づけられていた。まちの中にエレベータが少ない日本では段差のあるところをかつぐ必要があったからである。障害はひとつの個性と考えられるが、エレベータがないということは障害を持つ人の個性に合わせて社会全体が設計されていないとも理解できる。

以前、自立するということは、人に迷惑をかけず自分ですることと考えられていたが、この発想では重い障害を持つ人は絶対自立できない。今日、人の世話を受けながらも自分らしく生きることが自立だといわれる。これは、発想法の転換である。高齢社会では4人に1人は1年以上の寝たきりの生活を経験し、両親のどちらかが寝たきり老人になる割合は7割に達する。医療技術の進歩で、障害を持ちながら暮らせる時間が伸びたのである。社会の高齢化は、社会の障害者化でもあり、もはや他人事ではない。

ユニバーサルデザインの思想は、各人の個性を社会に合わせるのではなく、社会を各人の個性にあわせて変えていくということではないか。ユニバーサルデザインは、その概念が社会に認知されることが重要であり、社会づくりのキーワードである。

 

 

 

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