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地域が抱える問題に、これまでの制度や意思決定のシステムはもはや有効ではない。制度の賞味期限が切れてきたのだ。

 

「供給者」と「ユーザー」の相互参入

 

これまでの仕組みを少し考えてみよう。

地域の基盤整備の基準、仕様、時期、順序などについて、行政と議員あるいは専門家の参加で決められることが多かった。参加のシステムをとることがあっても、すでにある選択肢に○をつけるほかないアンケート、立案に関わることができない審議会、ガス抜き的役割でしかない地域懇談会といった、部分的・一過性の参加で、課題の発見から解決のためのプランづくり、その実現までに参加できる仕組みはごくまれであった。

施策を決定しサービスを「供給する側」の行政と、サービスを「受ける側」の住民の間に大きな壁があり、「供給者」は専門性を盾に公平と効率の視点から施策を推進し、「ユーザー」は自らの非専門性を根拠に行政に「考え、つくる」役割をおまかせし、使う立場に甘んじた。

そこにパートナーシップという考え方が出てきた。これまで「供給者」と「ユーザー」として役割分担してお互いに侵食しなかった住民と行政の間柄を、相互参入して役割の壁を壊しながら、ともに施策も考えるし、プランもつくるし、その実現にも相互で力を発揮していこうという、新しい行政と住民の関係をつくろうというのがパートナーシップである。つまり「協働(ともに対等の立場で働く)」の関係である。

 

行政からのアクションを起こす

 

このときに、これまで供給者の側にいた行政は、施策づくりやモノづくりの一線から身を引いて、パートナーとしてはいわば「従」の立場に立ち、住民を主役に押し立て、常に住民の発意に従うべきだという議論がある。

もっともな議論にも思える。私は少し違った見解を持っている。

つまり、行政側が、一緒に取り組むべきテーマについて、積極的に住民に呼びかけていっていいと考えている。

それには、二つの理由がある。

ひとつは、行政はまちづくりを専門職として、収入を得ている。それは、専門家として何が重要かを住民に提起する義務と責任を負っているということである。

もうひとつは、住民のほうは他に職業を持ち、まちづくりは余技の分野にならざるを得ない。情報不足や目配りの行き届かないことがたくさんある。

しかし、この前提に立てば、また振り出しに戻って「供給者」と「ユーザー」の関係の固定化が生まれる。

そこで、住民と行政の新しい関係をつくるための「協働ワークショップ」としての「まちづくり白書」の作成を取り上げたい。「まちづくり白書」とは、住民によってつくられた地域の課題とその解決の方向を提起した住民がつくる「書物」として、ここでは位置付けている。

 

「まちづくり白書」作成に取り組む

 

神奈川県川崎市は、東京と横浜に挟まれ、南北に7つの区が串刺し状に連なっている。この7区ごとに「区づくり白書」をこれまで3年程度かけてつくってきている。

川崎市でも一番南に位置する川崎区の白書のタイトルは「区民のまちづくり宣言」という。A4版のたて5段組の雑誌タイプの白書である。区内を十の地域に分けて、その地域ごとに「まちづくりクラブ」という住民組織をつくって、地域を調べ、課題を整理し、解決の方向を提起した。行政は、白書づくりに、担当職員、活動費用、行政情報、専門家の派遣といった支援策を整えた。

住民自身がつくった白書だが、白書の意義を説明し、白書をつくろうといった呼びかけは行政がしている。また、住民が気がついていない視点や課題があれば、それに目が向くように資料や情報を積極的に提供している。

この白書づくりが、先に挙げた成熟化、高齢化、セキュリティ(地域の安全の確保)といった分野に、住民と行政とのパートナーアクションを巻き起こしている。

 

白書づくりからまちづくりアクションが起こる

 

アクションの例を挙げると、成熟社会の住民は3点セット型公園整備に不満を抱いている。もっと地域の住民構成にふさわしい個性的な公園がほしい。

 

 

 

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