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ドイツの公的介護保険は、1978年から1994年まで実施された年金受給者の医療費にかんする財政調整と基本的な仕組みが同じである。したがって、ドイツ介護保険の財政調整の経済効果は、1978年から1994年まで実施された年金受給者の医療費にかんする財政調整の経験から予測することが可能である。結果をまとめると次のようになる。

第1に、事後的な財政調整は、付加的な単独医療部分も財政調整の対象となるため、経営努力を阻害し、1人当たり医療費の伸びを加速し、1人当たり医療費のちらばりを縮小する。すなわち、横並びを促進する。

第2に、事前的なリスク構造調整は、標準的な医療費までを財政調整の対象とするため、事後的な財政調整の短所をクリアできるが、標準的な医療費をかかった医療費の平均とする方法では支出の伸びを抑制する効果は大きくはない。標準的な医療費は、かかった医療費とはほぼ独立に設定されるべきである。そして、将来的には介護保険でも事前的なリスク構造調整を実施すべきである。

第3に、1978年から1994年まで実施された年金受給者の医療費にかんする財政調整、および1995年からのリスク構造調整においても、医療と介護はサイフをひとつにはしていない。たとえば、社会的入院の削減が、財政的に介護にそのまま回るという状況ではない。とくに、現在では、疾病保険に介護保険が併設されたメリットが充分に生かされていない。今後、この面でドイツの介護保険は改善の余地がある。

第4に、わが国の公的介護保険の財政調整は事後的な財政調整であり、支出誘発的な補助金である。これは、介護サービスの供給体制を早急に整備しなければならない段階においてはともかく、中長期的には事前的な財政調整が望ましい。

その他、わが国の公的介護保険制度案の財政調整にかんしてはIV節に記したとおりである。

 

[謝 辞] 本稿のドイツ疾病保険の財政調整については、簡易保険文化財団への報告書『ドイツ介護保険の財政調整―年金受給者医療費の財政調整の経験をもとにして』の一部を加筆・修正したものである。報告書を作成するに当たって、資料や文献などの御教示を受けた在ボン日本大使館一等書記官三石博文氏(当時)、健康保険連合社会保障研究室、薗部順先生、早稲田大学商学部土田武史教授、帝京大学江見康一教授ならびに簡易保険文化財団に厚くお礼を申し上げる。

 

1)1995年1月現在で月5850マルク(旧東ドイツ地域では月4800マルク)以下の所得を稼ぐ人が 社会保険に加入する。年金受給者の所得の上限は月7800マルク(旧東ドイツ地域では月6400マルク)である。民間保険と公的保険が併存するのは、両者の競争を図るためであるとされる。これについては、介護保険も同じである。

2)公的疾病保険の任意加入者あるいは民間疾病保険の加入者は、疾病保険に支払う保険料の半額に相当する補助金を事業主から受け取ることができる。ただし、その限度額は公的疾病保険に強制加入した場合の事業主負担分を限度とする。自営業者は事業所得が課税ベースとなり、全額自営業者が負担する。保険料算定報酬限度額は被用者と同じである。これらは、介護保険も同じである。

 

 

 

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