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それはリピエッツ(Alain Lipietz)の言葉を使えば、「完全に貨幣によって媒介」され、「自発性を排除」する「国家によって組織されるフォード主義的連帯」に代わって、「自律性と連帯との新しい同盟を構想すること」といってもよい。2

公共空間を人々の手の届く位置に創り出すためには、政府をメゾ・レベルで組み替えることが必要となる。つまり、日本の政治システムを、中央政府・地方政府・社会保障基金という「三つの福祉政府」体系に変革していくことを目指さなければならない。地方政府とは生活点での自発的協力にもとづく政府であり、社会保障基金とは生産点での自発的協力にもとづく政府である。地方政府は生活点での自発的協力を基礎に現物(サービス)給付を供給し、社会保障基金の生産点での自発的協力を基礎に現金給付を支給する。中央政府は自発的協力を基礎とする二つの政府に対して、ミニマム保障の中央責任を負う。

こうした「三つの政府体系」を形成すれば、政治システムの権力を分散し、公共空間を人々の手の届く距離に設定することができる。社会的安全ネットの張り替えは、この「三つの政府体系」の確立を基礎にする必要がある。社会保障改革もその場凌ぎのパッチワーク的改革を積み重ねるのではなく、「三つの福祉政府」体系の確立というヴィジョンのもとに、体系的に提示されなければ、人々の抱いている「将来への不安」を解消し、未来への希望を語ることはできないのである。

 

II. 「福祉国家」システムの破綻

現金給付の行き詰まり

1980年代を契機に、ケインズ主義と社会主義に支えられ、第ニ次世界大戦後に「戦後的コンセンサス」として定着していた「福祉国家」システムに対する批判が強まっていく。1981年にOECDが発表した「福祉国家の危機」は、そうした状況の進展を象徴している。3

「福祉国家」システムを支えてきた社会保障制度は、いずれの先進諸国でも1980年代を契機に、多かれ少なかれ見通しを迫られる。「福祉国家」システムの社会保障制度は、公的扶助と年金・医療・介護という社会保険を両輪として成り立っている。つまり、市場経済の外側で市場経済における弱者や敗者に、現金を政治システムが給付するという現金給付を基軸に社会保障制度が形成されている。

1980年代を契機に、こうした現金給付への見直しが進められる。イギリスでもアメリカでも、失業給付は大幅にカットされる。イギリスでは所得に依存する付加給付が、1981年に削減され、1982年には廃止されてしまう。アメリカでも付加給付の認定が抑制されていく。貧困の救済をビクトリアの美徳に委ねようとするサッチャー政権は、相対的貧困を市場経済の当然の副産物と見做し、ミニマム・スタンダードの保障責任を事実上放棄している。

 

2Lipietz[1989], 訳書168-170ページ参照。

3OECD[1981], 参照。

 

 

 

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