日本財団 図書館


自然っていうのは入れ替え制ってのはたくさんあるんですよ。これは河口とか海の力で、河口はそうですよ。月と地球の引力の関係で、満ち潮と引き潮と一日に二回ずつあるわけですよね。満ち潮になると川の方に海の水がずーっとさかのぼっていくじゃないですか。例えば、筑後川なんていうのはおもしろくて「アオ取水」といって、田んぼに淡水を入れる方法があります。満ち潮で水が逆流してくるわけです。筑後川の海の力強いですから、逆流してきて熟練の目で見ていて塩水が近づいてくるのがわかるわけですよ。塩水が近づいてきたら、さっと水門を閉めて水がほしいときだけ、田んぼの真水をとる。地下水を今はポンプアップしちゃうから、「アオ取水」というそういうのが本当に少ない部分でしかないですけど、残っていたりするんですね。

 

地球という同じ決まった空間の中に、

できるだけたくさん生き物が生きられるように、

補っていくようになっているんです。

 

そして、決まりきった場所にたくさんの生物が生きられるようにするためにはどうするかというと入れ替え制にする。つまり満ち潮になったときに海の水は川の方にいきます。そうすると海の生物が陸地の奥の方に行くことができる。そうしたら海の世界になるわけです。そして逆に今度引き潮になれば、川の淡水系の生物が生きることができる。そしてこの両方のところを生きるものもいるわけですよね、汽水域に魚は多いです。ボラとかニゴイとかハゼとか両方生きられるものがいて、元々どちらかに生きていたものですけど、適応していくわけですよね。そうやって同じ空間を自然のうちに共有しているんですよ。全く違う性格のものが。これが自然の力ですよ。これは見事なもんですよ。僕がこんなことを言おうが言うまいがそういうふうになっているわけですよね。その摂理が今でも働いていて、今、満ち潮か引き潮かわからないけれども、そういうふうになっている。そしてね、このまえ、屋久島に行ったときに、河口が完全に海の状態になっている満ち潮の時に、漁師が「ここに手長エビがいるよ」って言うんですよ。今の時間、ここに網いれると手長エビが100%採れるっていうんです。うそでしょって僕は思ったわけ、だって手長エビは、川のもんだから、「どうして今、海なのにいるんですか」って言って潜ってみたんですよ。

そうしたら、なるほどなあ、と思ったんですねえ、頭の中で考えるとね、満ち潮と引き潮でこうやって行き来していると思ってしまうじゃないですか。ところがそうじゃないんですね、複雑でこんな感じですよ。こんな感じで行ったりきたりしている、複雑にね。これが川だとしますと、指先にあたる部分が淡水になってるわけです。ここのところに手長エビがいるんですね、そうするとだいたい天敵というのは同じ条件の中に生きているもんですから、この周りは全部海で、こっちから海が続いているにせよ、ここは実に安全な空間になるわけ。人間が網入れちゃうから何にもならないけれども。本来の手長エビにとっては、いい場所を見つけたなあ、これで安全にこの時間は生きていくことができる、もしかすると、産卵するかどうかわかりませんが、まあそうやって、穏やかな時間を送ることができる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION