日本財団 図書館


4 健康な高齢者のコミュニケーションの場

(1) 住民ニーズからみた必要性

モデル3地区の在宅介護サービス利用意向調査の「自由回答」においては、現状の福祉制度であれ、介護保険施行後であれ、その仕組の中では対応が困難だが、確かに必要性は高いと思われる要望が少なからずあった。

その中でもっとも多かったのは、介護や見守りを担当している家族に急用ができた時にすぐ預かってくれるところが欲しい、というものである。一般に、訪問介護やデイサービスなどは、あらかじめ決められた曜日や時間帯しか受けられないため、いわば「突発的なニーズ」に対応できる柔軟な受け皿は(本人の急病以外には)皆無といってよいから、この種のニーズは潜在的にきわめて大きいとみられる。

このほかにも、現状、または介護保険制度から「はみ出す」、以下のようなケースについての要望があり、突発的なケースを含むこれらについては、地域の非福祉資源の発掘と活用によって対応すべきものと考えられる。

―痴呆老人と元気な高齢者が自由に交流できるスペース

―高齢者同士が気軽に交流できるスペース

―雨天でも車イスで「散歩」ができる場所(施設)など

 

(2) モデル地区ヒアリングでのアイディア

一般に、高齢者のADLを維持し、低下させないためには、自宅への引きこもりをやめて、できる限り外出の機会を増やすことが重要とされている(予防福祉の観点)。デイサービスなどもそのような効果を期待したものであるが、個別の外出支援サービスまでは、ヘルパーとしてもなかなか手がまわらないのが実状といえよう。また、自力で外出できる人を外へ引き出すには、「外出してみたくなる」魅力のある場所を増やす必要がある。実際に、人に会いたいから病院や診療所に受診する、待合室が老人サロン化している、という話はよく耳にするところである。

そのようなニーズに対応できる地域内の資源として、東松山市では、以下のものが指摘された。

―ラドンセンター(入浴を主体としたレジャー施設。宿泊機能もある)

―昼間の時間帯のカラオケボックス(空き室率が高い)

―地域に点在する寺院(高齢者は寺社参りを好む) など

 

(3) 企業の事例

―「あ・えるクラブ」(東京:エス・ピー・アイ)

「元気な高齢者を対象としたテーマ別の旅行会員」クラブであるが、東京・渋谷に「あ・えるサロン」という交流スペースをもち、会員向けの趣味・教養講座の開設や、会員の企画による個展の開催などの運営を行っている。

―「遊楽園」(東大阪市:ユウビス)

常識を覆して「50歳以下の人入場お断り」と銘打ったゲームセンター。若者ばかりのゲームセンターは入りにくい」という高齢者の心理的バリアーを取り除き、手動式のパチンコやコリントゲーム、スロットマシーンなどレトロ調のゲーム機を設置して人気を博した。

以上、検討した内容は、要介護・要支援の高齢者を緊急に預かる仕組から、元気な高齢者が街中へ出て楽しく過ごす場所まで、幅広いものである。そのため、すぐには実現が困難なもの(緊急預かりのシステムなど)から、地域のちょっとした資源を活用しようとする意思がありさえすれば、すぐにも実現できる項目まで、難易度はさまざまである。ただ、どこから手をつけるかは地域自体の考え方次第であるが、「高齢者福祉」が介護保険のメニューだけでは到底完結しない以上、どの項目であれ、地域の主体的な取組で行うことが必要であり、そのことは地域における「福祉文化の土壌の形成」にとっても極めて意義深いものといえよう。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION