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(4) 試作部品の設計、製作

 

ニアネットで寸法精度の高い精密鋳造品を得るため、モデル試験片を用いてワックス、中子、鋳物の収縮率を実験的に調査し、精密鋳造用金型や中子の設計を実施した。

ピストンは肉厚変化が大きく中空薄肉形状部を有するため、引け巣欠陥を中心とした鋳造欠陥が発生しやすい。凝固シミュレーションに先立ち、丸棒試験片(材質SNCM439、φ25mm×150mmL)の鋳造予備実験を実施し、鋳型の物性値(密度、比熱、熱伝導率)と境界条件である熱伝達係数、引け巣発生を予測する凝固パラメータについて検討し、ピストンの凝固シミュレーション結果をもとに鋳造方案を設計した。これらの結果をもとにピストンを試作し、ワックスパターン、セラミック中子および試作ピストンの寸法を調査、検討した。

 

3. 研究結果

 

調査結果、実験結果を下記に示す。

 

3-1. 鋳造材料の調査、実験結果

 

(1) 鋳造材料の選定

 

材料要求値をもとに鋳造材料を調査し、ピストン鋳造素材としてSNCM439(AISI4340)、SNCM630及びSCNCrM2(AISI4335)を選定した。ピストン鋳造素材候補材料の材料強度を表1に示す。

 

(2) 鋳造性の評価

 

鋳造性の評価は鋳造試験により評価した。評価試験片は直径25mm、長さ150mmの丸棒試験片とし、候補材料SNCM439、630、SCNCrM2を真空溶解・雰囲気鋳造した後、引け巣、ガス欠陥、鋳造割れなどの鋳造欠陥の発生状況を調査した。

鋳造欠陥はいずれも凝固収縮による引け巣であり、分布状況は材料によらず同程度である。また、ガス欠陥や凝固・冷却時の熱応力による鋳造割れは発生していなかった。候補材料SNCM439、630の鋳造性は鋳造材料のSCNCrM2と同程度で特に問題は無く、鋳造素材として適用可能であると判断した。

 

(3) 熱処理条件と鋳造材の機械的性質

 

候補材料SNCM439の機械的特性に及ぼす熱処理条件の影響を図1、2に示す。熱処理条件として焼戻し温度をパラメータとして機械的特性を整理した結果である。引張強度、0.2%耐力、疲労強度は焼戻し温度の上昇とともに低下している。一方、伸び、絞り、衝撃値は焼戻し温度とともに上昇する。要求値を満足するための焼戻し温度は580℃〜630℃が適当である。

SNCM630は非常に焼き入れ性が良く、200℃/Hで冷却してもマルテンサイト+ベイナイトの組織であり、高強度を維持できる。熱処理性(焼き入れ性)の観点から、SNCM630はピストン鋳造材料に適している。

 

 

 

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