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1. はじめに

 

コンピュータ現図システムのことを、ここでは簡単に「数値現図」とよぶ。

コンピュータ以前は現図床上に原寸で「現図」を描き、作画によって原寸形状を求めていたものを、すべてコンピュータの中で数値で行なうようにしたからで、実船の動的性能を模型船の水槽試験によらずコンピュータでのシミュレーションで求めるのを「数値水槽」と端的に捉えるが、その呼称に倣ったものである。

文書での初出は、日本造船学会'84刊『造船におけるシステム技術』に同名の1章があり、主として現図数値展開が紹介されている。

 

造船においては、ここでいう数値現図が普及しはじめて、すでに1/4世紀を超えるが、まだ世にあるのは、個別システムの特定された表面的な機能説明か、実用手順の操作マニュアルに類するものばかりで、その基本となる原理や原則を体系的に説明したものが見当たらない。

これまでの作画現図に通暁して、それから数値現図に取組む人達にとっては、現図の本質が変わるわけではないから、「どのようにやるか」の"ノーハウ: Know how"だけでも、まず差し当たりは事足りた。だが、作画現図は見よう見まねの程度や、初めから数値現図に入る人達にとって、これらの個別マニュアルだけでは、全く中身の想像がつかないブラックボックスでしかなく、仕事の興味が湧く勉強の誘い水になりようがないので、不満足であったに違いない。

 

数値現図以前の大学・造船学科では現図技術に対応する「造船幾何」の科目があったが、いつしか消滅しており、すでに概要すら教えられなくなっている。

そこで本書では、「なぜ、そうするのか」の"ノーファイ:Know why"に力点をおいて、述べてみることにする。

 

また、コンピュータ・システムは、まだまだ発展の途上にある。システムの不備や限界は、常時引き続き克服されてゆかねばならない。そのため、すでに数値現図に慣れた人達にとっても、これまで何の意識もなく操作していた意味、インプットの必要性が理解され、システム改善フィードバックへの目が開かれるよう、本書が役立つのを期待する。

 

なお、はじめに当って、造船現図指導書シリーズの1冊となる本書の説明は、既刊の同『現図展開』『原寸型・定規』の知識を、一応の前提としていることを断っておく。

 

 

 

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