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第3章 日本企業のコーポレート・ガバナンス

─雇用特性、企業者意識の歴史的発展経緯と現状を中心に─

竹村 英二

 

はじめに

 

1980年代までは絶賛されることの多かった「日本型」経営システムの抜本的転換が叫ばれて久しい。1990年代初頭より続く不況、そして国際化、情報化の波に対応しきれずにいる多くの日本企業群に対し、「グローバル・スタンダード」を内包した企業システムへの転換が謂われる。特に“三種の神器”と宣揚された年功序列、終身雇用、企業内組合を擁するシステムは、国際舞台での「大競争」の名の下に、「非効率」かつ「不合理」なものとして否定されつつある。

経営特性の変容は、今後、国際競争力の獲得を見据えた企業の組織変革の進行に伴い不可避的に進展するであろう。しかし、「日本的経営」と特殊視され、恰も既完不変なシステムと誤解されがちな代物は、近代以前より発展してきた独自の経営慣習・制度と、西洋から移入された技術的、経営組織的特質との化合物であり、更には「時間」を媒介とする進化過程そのものである。「日本的経営」とは、グローバルスケールでの変化の中で日本経済が置かれた時代的背景、並びに微妙に変異する社会慣習、生活様式、国民意識などとの一定の合理的適合性を具現しながら変化・形成されてきた歴史的産物としての組織構造・行動様式であり、制度であった。スタティックな日本的経営特殊論は再考されるべきであり、時代々々で直面する編成原理・経営環境の変化に対し一定の合理的適合性を有する、効率と淘汰を原理とする企業(経営)システムであると捉え直されねばならない。

未だ発展・進化過程の只中にある日本企業の経営組織、そして、コーポレート・ガバナンスのかたちは、今後、如何なる方向で変化してゆくのであろうか。製造のみならず、金融、保険、流通・小売等の分野において活発化する外資系企業の日本市場への参入、外国人ビジネスリーダーの経営参画による、日本企業に根強く残る経営慣習の変革、そして外資系情報産業の主導による急速な情報化は、日本企業を取り巻く昨今の企業環境与件を否応なく激変させるであろう。1 企業特性は、その国家或いは文化圏の社会的・慣習的特性と不可分であり、故に変容のべクトルは、例えば「アメリカ型」への直裁的転換には向かわないであろうが、企業経営の変革が迫られる中、我々はまず、現既の「日本的経営」といわれるものの特徴的諸側面を再整理し、その上で、変容を必然とするものとそうでないものを峻別し、分析する必要がある。主な検討点は、以下の如くであろう。

(a) “三種の神器”。特に終身雇用制度と年功序列について

(b) コーポレートガバナンス (C.G.)の問題について。特に「株主価値」との関連において

(c) C.G.と経営者、従業員について。特に'individual capability'優先の企業体か、或は'organizational capability'優先かについて

(d) 企業フィランソロピーについて

 

 

 

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